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映画、書評、ジャズなど

「別離」★★★★★

http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD20497/index.html
 イランのテヘランを舞台にした作品で、夫婦と娘、アルツハイマーの夫の父親の4人家族の家庭におけるトラブルを題材とした作品です。

 作品は、夫のナデルと妻のシミンが離婚調停を受ける場面から始まる。シミンは念願の海外移住のチャンスを手に入れたことから、娘のテルメを連れて海外移住を強く希望しているが、ナデルは父親の介護を理由に拒否しているため、2人は離婚する方向で調整を進めている。シミンは家を出ることになり、ナデルは父親の介護を家政婦のラジエーに委ねることにする。

 ラジエーは妊婦であったが、父親の介護は想像以上に重労働であった。ある日ラジエーは、父親をベッドに縛り付けて病院に行くために短時間家を空けたのだが、ちょうどラジエーの留守中に帰宅したナデルは、父親がベッドから転落しているのを発見する。しかも、家の部屋からは家政婦一日分の手当に相当する額のお金が消えていた。憤慨したナデルは、帰宅したラジエーを家から追い出そうとして、お金は盗んでいないと言い張るラジエーを無理矢理家の外に追い出すのだが、その際、ラジエーは階段から転落して流産してしまう。

 病院に駆けつけたナデルとシミンは、憤慨するラジエーの夫から猛烈な抗議を受ける。ナデルとラジエーの言い分には大きく2点の食い違いがあった。第1に、ラジエーが妊娠していたことをナデルが知っていたかどうかについて。娘のテルメの学校の先生がラジエーと会った際、先生はラジエーが妊娠していることに気づき、病院の電話番号を教えていたのだが、それをナデルが聞いていたかどうかが焦点となる。ナデルはラジエーの妊娠を知らなかったと主張する第2に、ラジエーの転落がナデルが押したことによるものであるか、そしてその転落が流産につながったかどうかについて。ラジエーはナデルに押されたと主張しているのに対し、ナデルは押していないと主張する。

 この2点で両者の言い分は大きく食い違うのであるが、実はナデルはラジエーの妊娠を知っていたことを告白する。そして、娘テルメの身の危険を感じたシミンの勧めもあって、ナデルは渋々示談で済ませようとする。

 ところが、ラジエーも、実は流産する前日、介護中に車とぶつかり、前の晩に腹痛があったことから、ナデルに押されて転落したことによって流産したかどうかについて確信が持てないと言い始める。そして、示談の場になって、ナデルは示談を拒否する。。。


 この作品では、節目節目でコーランが登場します。ナデルは妊娠を知らなかったと主張していたテルメの学校の先生も、コーランに誓うことを迫られて、結局それまでの主張を覆し、ナデルはラジエーの妊娠を知っていたと主張します。また、ラジエーもナデルに押されて転落したことについてコーランに誓えるかどうか問われ、これを拒みます。イスラムの世界におけるコーランの絶対的な重要性が象徴されています。

 コーランの存在によって真実が次第に明らかになっていくストーリー展開は見事としか言いようがありません。

 ラストシーンも大変印象的です。テルメが父親と母親のいずれを選ぶかを調停の場で迫られた際、両親は席をはずすよう言われ、2人は廊下で待機するのですが、ナデルとシミンはガラスのついたてを挟み、互いに目を合わせようともしません。この場面でエンディングとなるのですが、両親の大人の事情で娘のテルメが翻弄されたことが、この場面からまざまざと伝わってきます。

 登場人物の深い心理描写が秀逸な、近年稀に見る素晴らしい作品でした。