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東野圭吾「容疑者Xの献身」

容疑者Xの献身 (文春文庫)

容疑者Xの献身 (文春文庫)

 大変遅ればせながら、東野圭吾さんの著作を初めて読んでみました。さすが今日本を代表するミステリー作家の代表作だけあって、その緻密さと登場人物の心理描写は抜け目がありません。

 元ホステスの靖子は、前夫と分かれて娘と2人で暮らしており、今は弁当屋で働いていた。そこに前夫が現れ、執拗に復縁を迫ったことから、激情した娘が前夫に手を出し、結局母娘は前夫を殺害してしまう。靖子の隣人の石神は独身で、高校で数学を教えていたが、密かに靖子に思いを寄せていた。そして、一連の殺害を隣室で把握し、殺害が表沙汰にならないよう、処理を引き受けることとなった。

 数日後、近くの河川敷で死体が発見され、それは靖子の前夫の遺体とされた。靖子は石神から言われたとおりの供述をし、警察は事件当日のアリバイは崩せなかった。捜査を担当する刑事の草薙は、友人で大学教師の湯川に事件を相談したが、石神と湯川がかつて学生時代に勉学のライバル関係にあったことを知る。湯川は石神が靖子に思いを寄せていたことを察知し、石神が殺害に関係していたのではないかとの疑念を抱く。

 やがた石神は警察に出頭し、殺害は自分の犯行だと打ち明ける。靖子のボディーガード役だった石神が、靖子を訪ねてきた前夫を殺害したというストーリーの自白だったが、湯川は石神の自白に何かが隠されており、実は発見された死体は前夫とは別人の死体であったことを見抜く。石神は靖子による前夫の殺害を完璧に覆い隠すため、身元が特定されないホームレスの1人を別途殺害し、その遺体が発見されるように仕組んだのだった。その別途の殺害は前夫殺害の翌日に行われていたため、警察の執拗な追求があっても決して靖子のアリバイが崩れることはないように石神は仕組んでいたのだった。

 靖子はこうした事実を湯川から聞かされた。そして靖子は、石神と一緒に罰を受ける決心をしたのだった。。。


 長年数学一筋で生きてきた中年男性の石神の、隣人の靖子に対する献身的な思いがあまりに悲痛です。そんな石神が靖子をかばうために、数学者ならではの理論構成に基づき自分だけに罪が覆い被さるよう、新たな殺害を仕組んだわけですが、その石神の心理がとてもピュアで、思わず共感してしまいます。

 物語の最後まで、石神が別途の殺人を行っていたことは読者には知らされず、読者は見つかった死体が前夫のものだと思って読み進めるわけですが、そのどんでん返しの巧妙さは思わず舌を巻きます。そして、トリックの巧妙さ以上に、石神という男の役作りがとても素晴らしいのです。

 東野圭吾さんの人気の理由がよく分かりました。