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「屋根の上のバイオリン弾き」★★★★★

 ウクライナの小さな村アナテフカを舞台にしたミュージカル映画です。
 “Tradition”(しきたり)が連呼される歌が冒頭に流れますが、しきたりに厳格に縛られながら生活しているユダヤの人々がこの作品の主題となっています。結婚相手も親が決め、常に神の声を聞きながら生活の方向性が決められます。屋根の上のバイオリン弾きは、そんな厳しい生活を送る人々の心のバランスを取る役割を果たしているという設定です。

 そんなアナテフカで暮らすデヴィエは、妻と娘5人と一緒に暮らしていたが、時代は刻々と変化していた。デヴィエと妻は長女のツアイテルをある裕福な肉屋と結婚させようとしたが、ツアイテルは強硬に反対し、結局、貧しいが働き者の仕立屋との結婚を認めざるを得なかった。次女のホーデルも、革命を目指す若者と恋に落ち、その若者は当局に逮捕されてシベリアに抑留されるが、デヴィエは結局その後を追うホーデルを止めることはできなかった。さらに三女ハーバも親の反対を押し切って宗教が異なる若者と結婚してしまう。

 ロシア政府によるユダヤ人に対する弾圧も激しさを増してくる。アナテフカは古くからユダヤ人たちが住んでいた地域であったが、ロシア当局から退去を命じられる。住んでいたユダヤ人たちは身寄りをたどって世界中に散っていったのだった。。。

 全体のストーリーはユダヤ民族迫害という重苦しいテーマに包まれているのですが、合間のミュージカルのシーンがエンターテイメントの雰囲気を生み出しており、大変楽しめる構成になっています。

 一家の大黒柱のデヴィエの人物像も魅力的です。判断に迷うと神の教示にすがろうとする厳格な亭主ですが、従来の価値観を覆す娘たちの行動を結局容認していってしまうという優しい一面も持ち合わせています。

 そして何と言っても素晴らしい音楽!
 長女の結婚披露宴の場面で♪Sunrise Sunsetが流れるシーンは、あまりに美し過ぎます。

 3時間にもわたる長編作品ですが、全く飽きさせることのない素晴らしい作品でした。