- 作者: リービ英雄
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2011/02/17
- メディア: 文庫
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著者が中国を訪ねたとき、ちょうど米国による在ユーゴスラビアの中国大使館が誤爆された時期であったことから、米国人の著者に対する風当たりが強い様子が窺えます。また、日本に在住しているということから、内陸のバスの中で不穏な空気が漂う場面も印象的です。
本書から窺えるのは、中国における「市民」と「農民」の間の断絶が生じてきている実態です。中国人ドライバーたちでも、農村で車を止めることを避け、夜の農村地帯では、車を取り囲まれ、通行料を要求される。。。同じ中国でも、大きな格差が生じたことによって、社会に亀裂が走っていることが感じられます。
また、90年代半ばから後半にかけての中国の街の変貌ぶりに著者は衝撃を受けます。例えば、いきいきとした生活が営まれていた北京の胡同(フートン)といわれる路地があっという間になくなってしまったという事実について。
「現実があっという間に記憶に変わった。」
と著者は表現しています。
本書では、白求恩、すなわりノーマン・ベチューンというカナダ人について随所で取り上げられています。日本ではほとんど知られていない人物ですが、建国時に中国で医療に従事し戦死したという、中国では英雄視されているカナダ人です。その彼が、
「This is my country.」
と英語で言っているのをラジオで聞いて、著者は重い響きを感じます。西洋人が東洋の国をmy countryと呼んでいるのを中国のラジオが肯定的に放送するのを聞いて不思議な気持ちになるのももっともでしょう。
もう一人取り上げられている西洋人はアンナ・ルイーズ・ストロングという米国人作家です。この作家は本国ではほとんど読まれることのない作家のようですが、このストロング女史が周恩来夫妻によって両側から支えられて歩く老年の写真を著者は目にします。ストロング女史はだいぶ変わった人物だったようで、ソ連に渡って毛沢東のことをいろいろ喋り続けたことによってCIAのスパイとして逮捕され、収監され、追放されてしまったそうです。
こんな感じで、本書は著者のディアスポラ的なユニークな視線で中国社会を鋭く描写しています。白人の容姿を持ちながら、北京語を操り、日本に在住するという著者だからこそ、中国大陸のきわどい社会構造の中を泳ぎまわることができるように思います。大変興味深いフィールドワークになっています。
著者の卓越した日本語もあり、あっという間に読み通してしまうことができる作品でした。