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中国広東省旅行記

 さて、今回の旅でもっとも衝撃を受けたのは、中国広東省の都市開発のダイナミックさです。
 香港、マカオ、広州によって囲まれる地域は珠江デルタと呼ばれ、中国の開放政策によって早い時期から経済発展を遂げてきた地域です。今回の旅では、マカオに接する珠海市から中山市、東莞市を経て香港に入るルートをとりました。
 珠海は30年前までは何もない地域だったのが、訒小平の開放政策によって一挙に街が整備された場所です。

海岸線に沿って遊歩道や緑地がきれいに整備され、遊歩道は「恋人ロード」と名づけられているそうです。朝はジョギングをする人、休日にはくつろいだり散歩したりするカップルや家族連れで賑わっています。

 日本企業ではキャノンが珠海に進出しており、ガイドによれば1万人を超える従業員を雇用しているとのことです。地元では待遇が良いことで知られているそうです。
 珠海にはジャスコがあったので、行ってみましたが、販売価格はそれほど日本と変わるわけではないのに、物凄い数の買い物客でごった返していました。

 統計資料によれば、珠海の都市市民可処分所得は22,859元ということですから、1元=13円として換算すれば、日本円で30万円程度です。これくらいの年間可処分所得ですと、ジャスコで買い物する余裕はないように思われますので、おそらく、人々の間で貧富の差が拡大しており、ジャスコに来るような人たちは富裕層に属する人たちなのではないかと推測されます。そうだとすると、凄い数の富裕層ということになります。

東莞市の凄まじい都市開発

 こうして珠海の富裕層の消費欲に驚かされたわけですが、それにも増して驚いたのは、東莞市の凄まじい都市開発です。東莞市は、かつてアヘン戦争の戦場となった虎門があることでも知られています。
 東莞市の人口は戸籍上では200万人程度のようですが、居住人口は800万人を超える規模だとのこと。要するに、内陸からの移民が大量に押し寄せているのが現状です。東莞市は、香港と広州の間に位置し、深センの北にあります。世界各国から15000の外資企業が集まり、IT関連製造業の一大拠点を形成しています。日本企業も500社を超える企業が設立されており、日立や京セラなどが工場を構えています。単なる地方の一都市をイメージしていたので、イメージと実際とのギャップに驚愕しました。

 市内には人民政府の立派な建物を中心として街がきれいに整備されており、立派な展示場や劇場もあります。地下鉄の建設も急ピッチで進められています。

 市内でもっとも高いビルは台湾人によって建てられた68Fのビルで、スーパーマーケットや企業オフィス、そして高層部はマンションとして使われているとのことです。
 このように、東莞市は立派な大都市なのですが、それでも中国にはこれくらいの規模の都市がまだまだあるようで、隣の深センに比べれば小規模だというのですから驚きです。深センから香港に入る橋を渡る際に後ろを振り返ると、見渡す限り深セン側に高層ビルが立ち並んでいる光景に唖然とさせられます。
 このように、広東省の都市開発のダイナミックさは凄まじいものであったわけですが、ただ、広東省の発展が今後とも安泰かといえば、そうでもないような気がします。かつてこの地域は人件費が安かったために、多くの外資企業がこぞって進出してきたわけですが、近年、この地域の人件費は高騰しています。このため、進出企業は、安い労働力を求めて、中国内陸へ移転したり、ベトナムなど他の東南アジア各国へ移転したりしているわけです。また、外資企業の大規模な投資により、土地の価格がつりあがっているようですが、これはバブルの可能性を十分孕んでいます。富裕層の多くは土地の売却等によってお金を得た人々だと思われますが、一旦土地の価格が下落すれば、大変な経済的影響を及ぼすことは目に見ています。さらに、この地域では貧富の差が拡大していることは、政情不安定につながる潜在的な可能性を孕みます。

 こうして考えてみると、広東省における発展がこのペースで続いていくとは到底思えないのです。だから、広東省の凄まじい発展ぶりを目の当たりにすると、驚愕する一方で、不安な思いも抱かざるを得ないのです。

香港経由で帰路へ

 東莞市から陸路で香港に入りました。香港は3年前に一度来たことがありましたが、相変わらず、郊外では高層マンションの建設ラッシュが進んでいます。物流施設も桁違いに巨大で、数え切れない数のコンテナが集結しています。

 前回は香港島に泊まったのですが、今回は九龍半島側に泊まりました。九龍半島から香港島を臨む景色にはいろいろ考えさせられます。

 対岸の端から端までびっしりと高層ビルで埋め尽くされ、世界的に著名な企業名が書かれた看板が数多く掲げられています。こんな狭いスペースになぜここまでビルを密集させて生活しなければならないのか?これは人間社会の本質を考える上で重要な問題提起かもしれません。
 今、香港には大量の中国人が本土から押し寄せています。香港は今“ショーケース”の機能があると言われています。つまり、香港で物を売れば中国本土を始めとする世界各国からやってきた人たちの目に触れ、気に入ってもらえれば、他国にも販路を広げるチャンスが出てくるからです。世界への販売戦略の拠点を香港に置く企業も出てきているようです。
 中国本土からの観光客はほとんどが買い物目的の観光客で、免税店がツアールートに組み込まれているため、免税店には中国人が殺到します。おそらくは土地の売却益などでつい最近大金を手にしたばかりの成金と思われる中国人たちが免税店でブランドを買い漁る光景は、やはりどこか不健全です。
 しかし、香港という街は実に飽きが来ない街です。所狭しと密集した高層ビル群も、個別のビルについて見ればなんら特徴のないものばかりですが、それを集合体としてみれば、そこには香港らしい魅力がくっきりと浮かび上がってくるのです。

 今回巡った中で、ホーチミン広東省もそれぞれ魅力的な面がありましたが、やはり何度でも来たいと思わせる街は香港でしょう。いろいろな人種や民族の人々が集結し、各自がそれぞれ香港を自分の街といわんばかりに闊歩している光景は非常に心地よいものです。これだけいろいろな人たちが集まっていれば、住んでいて退屈することはないでしょう。

 人間にとって、旅はやはり必要なものです。異文化に接することで自己の長所も短所も見つめなおすことができますし、中国のダイナミックな発展も写真では伝わらない感覚を直接感じ取ることができます。とても充実した旅でした。