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マカオ漫遊記

 今回、中国側の珠海という街から澳門(マカオ)に入りました。中国からマカオへは陸続きで入国できるのですが、このルートで行くと入国審査に時間がかかるので、あえてフェリーで入国するという方法をとりました。
 フェリーで渡る面々を見てみると、中国人の若者カップルが目立ちます。おそらくはデート目的でマカオに渡っているのでしょうか。中国人にとってマカオは、もはや外国というよりもテーマパークくらいの感覚なのかもしれません。
 マカオは大きく半島部分と島の部分とに分かれ、半島部分には世界遺産に指定されている数多くの歴史的名所が残されています。フェリーから降りてまず向かったのは、有名な聖ポール天主堂跡です。

 現在は1枚の大きな壁が残っているのみですが、かつてはこの後ろに教会建築があったそうです。この壁には様々な彫刻が施されており、中には日本の浮世絵をモチーフとしたものもあって、これは当時迫害を受けて日本から脱出した日本人キリシタンの手によるものとされています。この壁の前から下に向かって広めの階段があり、あたかもイタリアのスペイン広場を彷彿とさせる雰囲気です。
 聖ポール天主堂から階段を下っていき、古い建物が残る商店街を過ぎると、セナド広場に着きます。

 中央の噴水を囲むようにして、かつてポルトガル植民地時代の中枢だった民政総署など数々の趣のある建築物が並んでいて、とても情緒溢れる雰囲気となっています。この周辺の建物すべてが昔からの建築物というわけではないようですが、それにしても、周辺の景観と調和した建物でうまく構成されています。マカオの街を歩いていても、地元の白人系の人々はほとんど見かけませんが、かつての植民地時代の雰囲気を醸し出している建物が溢れるばかりに残されていて、それがマカオ独特の情緒を生みだしていることがよく分かります。日本も快適な都市空間づくりを考える上で、こうしたマカオの街づくりに学ぶべき点は多いように思います。
 

マカオタワーから飛び降りる人々

 半島の南端部にはマカオタワーがそびえ立っています。

 この上には、ゆっくりと時間をかけて360度回転するレストランがあるのですが、そこからのマカオの街の眺めは絶景です。半島部から島につながる3本の大きな橋、きらびやかで宮殿のような建物が並ぶカジノホテル、そして昔ながらの街並みが残る地区等々が一望できます。
 このマカオタワーは、バンジージャンプができることで知られています。結構人気があるようで、下から見ていると、結構な頻度で上から人が飛び降りてきます。中には欧米系の女性もいます。

 とにかく、この街には、スリルを求めて多くの人々が集まってきます。スリルを味わうためなら、お金に糸目を付けない人たちが世界中にはごまんといるのです。カジノもそうですが、このバンジージャンプも正にマカオを象徴するアトラクションといえるでしょう。資本主義の欲望を突き詰めていくと、行き着くのはマカオのような街なのかもしれません。


カジノ初体験!

 さて、今回はサンズというカジノに行ってみました。

 サンズはラスベガスの資本が建てたカジノで、広大なフロア面積を誇ります。一般の人が入れる2階部分には、フロア一杯に様々なカジノを催すテーブルが無数に並べられています。テーブルにはカジノマスターがそれぞれ張り付き、人が集まり繁盛しているテーブルもあれば、誰か客が来るのを待っているテーブルもあります。客は購入したコインを持って、いろいろなテーブルを回り、賭けを楽しんでいます。
 今回チャレンジしたのは、大小と呼ばれるサイコロゲームです。ルールは極めて簡単で、3つのサイコロの目が11以上(大)か10以下(小)かを当てるゲームです。合計値をピンポイントで賭ける場合は、その分倍率も高くなります。1ゲーム200香港ドル(=約2000円)から賭けることができます。
 最初は大か小かを中心に堅実に賭けていましたが、これだと勝っても賭けた分の2倍にしかなりませんので、なかなか手元の資金は増えていきません。そこで、ピンポイントで合計数を当てようとするようになり、結局、あっという間に資金が消えていくという結果になります。
 私がテーブルに張り付いてカジノに興じていると、後ろから10,000香港ドル(=約10万円)のコインをポイっと放り投げる人がいたので振り返ってみると、中国人と思われる若者でした。結局、彼ははずれてしまったのですが、何事もなかったような涼しい顔で別のテーブルへと去っていきました。よく見れば、周りはほとんど大陸から来たと思われる中国人ばかりです。服装はお世辞にもスタイリッシュではなくダサいのですが、そんな人たちが多額のコインを手にしてカジノに興じている姿を見ると、不思議な気分になります。中国人社会はどこか道を踏み外し始めているのではないかとさえ思ってしまいます。
 ただ、実際にカジノに行ってみて分かったのは、カジノは思ったよりも健全であるということです。見かけは普通のあまりいけていない人たちが気楽な感じでカジノにお金をつぎ込んでいるのです。日本でカジノを実現するにはまだまだ時間がかかるかもしれませんが、例えば、当面は外国人をターゲットとしたカジノを建設するのであれば、最近土地バブルなどによってこがねを手にした中国人たちからお金を徴収できることになるのではないかと思います。ただ、世界各国がカジノを競って整備している中、世界から人々を集めるカジノを日本で実現しようとすれば、マカオに負けない相当立派な規模のカジノを整備する必要があります。その覚悟があるのであれば、日本でのカジノというのも案外悪くないかもしれません。

資本主義を支える欲望の発露

 マカオという街を見ていると、人間の欲望が最も分かりやすく発露した街であることに気付かされます。資本主義というのは無駄で支えられたシステムですが、その無駄を生み出す原動力となるのが人間の欲望といえます。マカオにはこうした人間の欲望に支えられた無駄が随所に見られます。
 例えば、ウィン・マカオというホテルの1Fには数多くのブランドショップが並んでいますが、その前庭にある大きな池では、定期的に噴水と火炎を使ったショーが繰り広げられます。たくさんの噴水口が左右に揺れる中を、時折火炎がボワーっと吹き上がります。

 見ていて楽しいのですが、極めて非実用的な贅沢です。しかし、考えてみれば、資本主義というのは、こういう不必要な贅沢の上に成り立ち、繁栄しているわけです。バンジージャンプにしたって、現代人がお金を払ってあんな高いところから飛ぶ必要性を説得的に説明できる人はいないでしょう。しかし、現代の資本主義文明というのは、こういう無駄があるからこそ繁栄しているのだということが、マカオに来ると実感することができます。

 こうしてマカオには世界中の人間の欲望が集結しているのです。