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映画、書評、ジャズなど

マリオ・バルガス=リョサ「悪い娘の悪戯」

悪い娘の悪戯

悪い娘の悪戯

 ノーベル文学賞を受賞したペルーの小説家による2006年に公刊された作品です。
 世界を股にかけて展開される壮大な喜劇ともいうべき作品で、次々と違う金持ちの男に乗り換えていく小悪魔的女性ニーニャ・マラと、彼女を一途に思い続ける主人公のリカルディートのキャラクターがどこか切なく美しく、読み終わった後の深い余韻を残してくれた久々の作品でした。

 最初の舞台はペルーのリマ。謎のチリ人姉妹が男たちを魅了していた。リカルディートは妹のリリーに告白したが、恋人同然のつき合いをしていたものの、告白を受け容れることはなかった。やがて、この姉妹はチリ人ではなく、ペルー人であることが判明した。

 次の舞台はフランスのパリ。キューバの革命の熱狂の中、キューバに革命戦士を送り込むペルー人の下にやってきた女たちの一人がリリーだった。リリーはリカルディートに、キューバに送られずに済むよう手配してくれるよう懇願したが、結局リリーはキューバに送られた。その後リリーは、キューバ司令官の愛人になっているとの話が伝わってくる。
 その後リカルディートはパリでリリーと再会する。そのとき、リリーはフランス人外交官アルヌーの夫人となっていた。ところが、このアルヌー夫人は夫の元から逃げ出してしまった。

 その後、彼女と再会したのはロンドンだった。リカルディートはロンドンに出張した際、富裕な未亡人に認められた同郷の友人とたびたび会っていた。そこで目にしたのが、メキシコ出身と名乗る彼女だった。ある豪邸のパーティーで彼女と再会する。彼女は、馬をたしなむ大富豪リチャードソンの夫人となっていたのだった。2人は再会して逢瀬を楽しむが、やがて彼女は夫と離婚手続きを進める運びとなっていた。

 次の舞台は日本。日本に行った友人から、彼女が日本にいることを知らされる。リカルディートは彼女に会いに韓国の仕事のついでに日本に向かう。彼女は日本人女性として、闇の仕事に従事する日本人男フクダの愛人になっていた。しかし、ある日、彼女にフクダの家に連れて行かれ、そこで彼女と行為に及んだが、それを覗くフクダの姿があった。リカルディートは彼女にはめられたことに激怒し、日本を離れた。

 パリに戻ったリカルディートは、近所の夫婦と仲良くなる。この夫婦には話をしないベトナム生まれの養子が一人いた。そこに彼女からたびたび電話がかかってきたが、怒りが収まらないリカルディートはすぐに電話を切った。何度目かにようやくリカルディートは彼女と電話を話をし、彼女がパリにいることを知る。再会した彼女は激やせして老け込んでいた。彼女の話によれば、日本人のフクダから言われて赴いたアフリカで暴行を受け、しかもフクダに捨てられたとのことだった。リカルディートは彼女に同情し、多額の借金をして彼女の療養に力を貸した。彼女はやがて回復し、仕事に励むまでになったが、しかし彼女はまたしても彼の下から離れていった。仕事の上司の女性の旦那を奪ったのだった。

 リカルディートはペルーに戻ったとき、親類からある老人の紹介を受ける。この老人は、防波堤造りのプロで、パリに実の娘がいるとのことだった。その娘こそが彼女であることをリカルディートは悟った。そして、老人から彼女の貧しい生い立ちを聞き、そうした境遇から彼女が必死に抜け出そうとしてきたことを知った。

 その後、リカルディートはスペインで若い演劇をやっている女性と同棲生活を送るようになる。この若い女性がリカルディートの下を離れていったとき、またしても彼女がリカルディートの前に現れた。彼女はもはやぼろぼろの体だった。全身に癌を患い、手術を重ねていたのだった。死期が近いことを認識した彼女は、前夫から得た株や南仏の不動産をリカルディートに譲るつもりだった。

 南仏の家にやってきた2人。彼女は彼に対し、一の日か2人の恋物語を小説に書くことを決めたなら、あまり自分のことを悪く書かないでほしいと話をした。そして、次のように言う。

「少なくとも私、小説一冊分のテーマは提供したでしょう、ニーニョ・ブエノ?」


 貧しい境遇に育ち、そこからはい上がっていくために、次々と自分の存在を入れ替え、新しい金持ちの男に乗り換えるニーニャ・マラ。そんな彼女に翻弄され、ときには憤慨するものの、それでも彼女を見捨てることができない主人公のリカルディート。この2人のキャラクターが何と魅力的なことか!

 彼女の生き様は喜劇そのものなのですが、にもかかわらず、とても切なさを孕んでいます。

 そして、主人公リカルディートは、ニーニャ・マラに対して基本的に受け身です。彼女は彼の下を突如として離れていき、再び戻ってきたときは、なんだかんだあってもやがて彼女を受け容れます。そんな肩の力が抜けた生き様が、とても魅力的です。

 この作家の本としては、かつて『密林の語り部』にチャレンジしたものの、最後まで読み通すことができませんでしたが、本書はあっという間に読み通してしまいました。

 久々に、強烈な余韻を残してくれる作品に出会いました。訳が読みやすく、本当に面白い本ですので、是非手にとってみてください。