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ジェフェリー・アーチャー「十一番目の戒律」

十一番目の戒律 (新潮文庫)

十一番目の戒律 (新潮文庫)

 コロンビアでの暗殺を遂げたCIAの特殊工作員が、その事実を隠蔽するためにCIAからはめられてロシアでの大統領候補暗殺に従事するという話です。CIAが保身のための暴走するストーリーがとてもリアルに描かれています。

 CIAの特殊工作員コナーは、コロンビアでの大統領候補の暗殺に成功し帰国する。この件はCIAが大統領の許可を得ずに独断で行ったものであったが、CIA長官のヘレンは、米国大統領のローレンスから、CIAの仕業ではないかと嫌疑をかけられる。このため、ヘレンはコナーの存在が煙たくなる。ヘレンは大統領の許可なくコナーに対してロシアの大統領候補ゼリムスキーの暗殺を命じるが、あたかも大統領から直々の指示があったかのようにコナーに見せかけた。しかしながら、途中で暗殺計画が何者かによってロシア警察当局に通報され、コナーは逮捕される。ヘレンがコナーをはめてロシアで処刑されるよう仕向けたのだった。

 コナーは直ちに処刑されたかと思われたが、実はかつてベトナム戦争でコナーに命を救われたかつての上司のジャクソンが身代わりになったのだった。それはロシア・マフィアのボスのツァーによって仕組まれたものだった。

 コナーの秘書ジョーンは、ロシア大統領候補暗殺計画で逮捕されたのがコナーであることを悟ったために、CIAの手によって殺害される。

 コナーはジャクソンに成り代わってアメリカに帰国する。家族を安全なオーストラリアに移動させると、コナーはツァーとの約束を果たすために、晴れて大統領に当選して米国を訪れているゼリムスキーの暗殺を企てる。スタジアムに現れたゼリムスキーを銃撃しようとしたそのとき、コナーはシークレット・サービスに見つかり、銃撃されて肩を負傷する。その後コナーは病院で命を落とし、大統領の臨席の下で葬儀も営まれた。

 コナーの妻マギー、娘のタラとそのフィアンセのスチュアートは、コナーは死んだものだと思ってオーストラリアで生活をしていた。コナーが学生時代に妻のマギーを奪った相手のデクランがオーストラリアにやって来るという話を聞き、マギーは心をときめかせて空港に向かった。そこに現れたのは何と片腕を失ったコナーだった。。。


 よくできたストーリーです。大統領とCIAの確執、CIAの暴走、ロシアのマフィアの暗躍、あらゆる点がリアルにできています。コナーとマギーの出会いのストーリーが最後の場面の大どんでん返しで生きてくる構成はさすがジェフェリー・アーチャーです。

 ベトナム戦争で命を救われた恩義のために、ロシアで身代わりになって処刑されるジャクソンの勇敢な行動は心を打たれます。

 タイトルの十一番目の戒律というのは、

「絶対につかまるな。万一つかまったときは、CIAとの関係を断固否定しろ。心配しなくていい−ザ・カンパニーがかならずきみの面倒を見る」

というCIAの戒律を指します。しかし、実際はCIAは冷酷に工作員を切り捨て、組織防衛に走ります。そんな工作員という立場の悲哀がこの作品からは伝わってきます。

 それにしても、冷戦という大国が冷酷に対立する状況はミステリー小説の舞台としてはうってつけです。本作品はそうした冷戦を舞台にした実に壮大な物語で、読み終えた後にずっと尾を引くような余韻が残る作品でした。