- 出版社/メーカー: 松竹ホームビデオ
- 発売日: 2008/06/27
- メディア: DVD
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主人公のサラリーマン平山(笠智衆)は妻と死別し、長男は結婚して外へ出ているため、今は長女の路子(岩下志麻)と次男と一緒に住んでいる。身の回りの世話は路子に依存しており、路子への縁談話が舞い込んできても、まじめに対応してこなかった。
あるとき、恩師を囲んでの同窓会で、恩師が婚期を逃した娘と2人で暮らしている姿を目の当たりにする。平山は次第に、路子を早く嫁がせようという心境に傾いていく。
路子が密かに思いを寄せていた男は既に相手がいたので断念。平山の同級生が持ち込んだ縁談が実を結び、路子は嫁いでいった。
路子が嫁いでいった晩、平山は一段と寂しさを感じ、遅くまで飲み歩いた。人は結局ひとりぼっちであることを身にしみて痛感したのだった。。。
この作品が製作されたのが1962年ですから、日本が高度成長期に突入した頃です。世はレジャーブームに突入し始めた頃で、人々の間でも娯楽を楽しむ雰囲気が醸成されてきた時期です。作品中でも、長男がゴルフクラブを購入しようとして妻と口論になるシーンがあります。
他方、いまだ戦争の傷跡が色濃く残っており、この作品の中でも、平山が海軍時代のかつての部下とスナックに飲みに行き、一緒に軍艦マーチを聴きながら敬礼しているシーンが大変印象的です。
いずれにしても、この時期、日本社会は戦後を乗り越え、ようやく明るさや将来展望が見えてきたわけですが、小津監督はそんな時代にあっても、人生はやはりほろ苦いものであることを描いています。娘を無事嫁に出すことで心配事がひとつ取り除かれたはずであるのに、その瞬間からひとりぼっちであることを痛感しなくてはならないわけです。
しかしながら、おそらく、こうしたほろ苦さを含んだ幸せこそが、当時の幸せのひとつの形であり、小津監督はそんな当時の幸せの形をこの作品で表現したかったのではないかという気がします。
周知のとおり、この作品ではタイトルにある秋刀魚が一度も登場しません。秋刀魚が意味するところは、脂がのっている身の一方で内臓の苦みも含まれているわけです。でもそんな苦みも含めて秋刀魚なわけです。
秋刀魚のような当時の幸せの形は、今日の社会ではなかなか味わいにくくなっているような気がします。
何度も見返したくなるような味のある作品です。