- 作者: グレアム・グリーン,田中西二郎
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2004/08/18
- メディア: 文庫
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主人公は、ベトナムで勤務するイギリス人記者のファウラー。その友人であるアメリカ人青年パイルが水死体で発見される。
ファウラーとパイルはベトナムの美しい女性フォンを巡ってライバル関係にあった。若いパイルはフォンと本気で結婚を考えており、わざわざ戦場取材をしていたファウラーのところまで、フォンが好きであることを伝えにやってくるほどであった。その道中、足に怪我をしたファウラーはパイルの献身的な助けによって一命を取り留め、パイルに多大な恩を負う。
他方、パイルはアメリカの諜報活動に携わっていることが判明してくる。プラスティック爆弾を密かに製造し、それをテエ将軍率いる第三勢力に渡して破壊活動を先導していたのだ。パイルはヨーク・ハーディングという学者の唱える「アジアで必要なものは“第三勢力”だ」という説に心酔し、それをベトナムで実践しようとしていたのだった。
そして、パイルはついに街中で大規模な爆弾テロを引き起こす。その時間そこでは分列式があるはずで、それを狙ったものであったが、実際は分列式は中止となっており、結果的に多くの市民が犠牲となってしまった。
ファウラーはこのパイルというアメリカ人青年の無邪気さに危険性を感じる。そして、彼が殺されることを薄々感じながら、ある日パイルをレストランに呼び出す。案の定、パイルは水死体で発見されたのであった。。。
グリーンはこの作品を通じて、アメリカという国の無邪気さの危険性を伝えたかったのでしょう。アメリカからやってきて現地の女性に恋をしつつ、かたや学者の理論をそのままベトナムに適用しようとして、プラスティック爆弾を製造し、多くの市民を犠牲にすることを平然と行う無神経で無邪気なアメリカ人青年パイルは、グリーンにとって、アメリカという国そのものの象徴だったと言えるでしょう。
この作品は1952年代の作品ですが、グリーンの見たアメリカの無邪気さは、民主化という旗印を掲げてアフガニスタンやイラクで身勝手な戦争を遂行する現代のアメリカにもそのまま通じます。
グリーンのアメリカに対する感情は、パイルが殺害された理由として思い当たることがないか?とアメリカの経済アタッシェから問われたファウラーの次の言葉に集約されているように思います。
「やつらがパイルを殺したのは、あの男が生かしておくには無邪気すぎたからだよ。若くて無知で、愚かだったから、あの男は捲きこまれた。あんたがたみんなと同様、あの男は事件の全貌について何ひとつわかっていなかった。そこへあんたがたはパイルに金とヨーク・ハーディングの東亜問題の著書とを渡して、『やれ。デモクラシーのために、アジアを手に入れろ』と言った。あの男には講堂で聴いたこと以外は何も見えなかった。そしてあの男の読んだ本の著者たちや、大学の教授たちが、あの男をだまくらかした。死体を見ても、あの男はその傷口を見ることさえできなかった。赤の脅威か、デモクラシーの戦士かにすぎなかった」
現代の国際問題にも通じるグリーンの鋭い視線に、思わずため息の出てしまうような作品です。