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ベルンハルト・シュリンク「週末」

週末 (新潮クレスト・ブックス)

週末 (新潮クレスト・ブックス)

 映画『愛を読むひと』の原作『朗読者』を書いたベルンハルト・シュリンクの作品です。

 殺人の罪で20年間服役したテロリストの出所した直後の週末を描いたものです。

 かつて有名なテロリストであったイェルクは、恩赦によって出所する。イェルクの姉は、イェルクの出所に併せてかつての仲間たちを田舎の邸宅に呼ぶ。そこに集まったのは、かつて連合赤軍としてテロに共感を寄せていた仲間たちだった。

 彼らは既にそうした政治活動から足を洗っており、当時を様々な形で振り返ることになる。中には、イェルクに対して収監中の話を露骨に根掘り葉掘り聞く者や、それに反発する者など、意見の対立も見られる。

 イェルクは自分の居場所を警察に密告したとして仲間の一人を疑っているが、実はそれはイェルクの姉だったことも判明する。イェルクの姉は、仲間の一人とかつて親密な仲になりかけたが、イェルクに対するやや歪んだ愛情からそれを思いとどまったという話も懐古される。

 仲間の一人の娘はイェルクに大胆にアプローチをかけるが、出所したばかりのイェルクはそれを拒む。実はイェルクは前立腺癌であることが服役中に判明していたのだった。

 美術の研究者として紛れ込んできた若者がいたが、実は彼はイェルクの息子だった。彼はイェルクを舌鋒激しく批判し、イェルクはたじたじとなる。

 未だにジャーナリストとして政治活動を続けながら、イェルクの再起に期待する者もいる。マルコという男は、周囲の反対を押し切って、イェルクの政治的な声明文を発表してしまう。週末に行われたドイツの大統領の演説ではこのイェルクの声明文にも触れられ、遺憾の意が表明される。

 この会を企画したイェルクの姉は、この週末の集いは果たして正しかったのかどうか自問する。

 ・・・こんな感じで、出所直後の週末は過ぎていったのだった。。。

 かつてのメンバーたちがそれぞれの背景を持ちながらそれに参加しており、20年が経過した後、またそれぞれの立場を抱えながらかつての政治活動を振り返り、イェルクに対する態度にもつながっていく、そんな人間模様が魅力的な作品です。

 訳者解説によれば、この作品は2008年に出版されたのですが、その直前の2007年に連合赤軍メンバーの恩赦問題が大きな話題となったのだそうです。クリスティアン・クラーという男はテロリストとして数多くの殺害に関与して終身刑を言い渡されます。彼の恩赦については議論が分かれ、そのときは結局、恩赦願いは却下されたそうです。

 ベルンハルト・シュリンクも、執筆中にこの件について意識はしていたことは認めているようです。そして、クラーはその後、本書が出版された後に恩赦となったようです。

 この物語では、9・11ともうっすらとつながりが持たせられています。仲間のうちの一人の女性イルゼが、かつて自殺した仲間のヤンが実は生きており、その後9・11に巻き込まれてビルの上から飛び降りたという内容の小説を執筆していくことになります。このイルゼの脳裏の中でかつての連合赤軍の活動と9・11とがうっすらと結びつけられ、そのことが、過去と現在のつながりをもたせる効果も生み出しているような気がします。

 大変内面的なストーリーなのですが、テロリストが出所した直後の二日間を切り取って描くという斬新な設定や着想、それらが本書の大きな魅力につながっているように思います。