- 作者: ジョン・ル・カレ,宇野利泰
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1978/11
- メディア: 文庫
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外務省の高級官吏サムエル・フェナンに対する匿名の告発があり、スマイリーはその尋問を担当する。スマイリーは公園にフェナンを連れ出し尋問し、その疑惑は晴れたかに思えたのだが、サムエル・フェナンはその後、疑惑を受けたことを糾弾する内容の遺書を遺して自宅で自殺する。スマイリーはフェナンの妻エルサのところへ赴くが、その言動がどうも的を得なかった。そこに偶然かかってきた電話をスマイリーが取ったのだが、それは生前のサムエルが電話局にコールを頼んだものであったことが判明する。スマイリーは、サムエルの自殺に疑義を呈する。
スマイリーがその後自宅に帰ると、そこには見知らぬ男が待ちかまえていた。スマイリーを襲おうとしていたのは明白だった。その後、スマイリーの自宅に停まっていた車の所有者から話を聞いたところ、その持ち主はやがて死体で見つかった。その持ち主から車を借りていた人物はドイツの関連団体とつながっていた。そして、エルサ・フェナンはその車を借りていた人物と定期的に劇場で待ち合わせていたことが分かる。
このドイツとつながりのある人物はムントという人物であり、その背後にいるのがディーター・フライだった。ディーター・フライはかつてスマイリーが英国スパイとして見込んだ人物であったが、その後の消息が分からなくなっていた。おそらくディーターがスマイリーとサムエルが2人で公園で話をしているのを目撃して、サムエルの殺害を企てたのだと推測された。
しかし、腑に落ちない点があった。誰がサムエルを匿名で告発したのか?サムエルについての告発状は、サムエルの遺書と同じタイプライターで作成されていた。また、サムエルは外務省高官として機密性の高い書類に接触できたにもかかわらず、実際にドイツ側に流れていた文書はどうでもよい内容のものばかりだった。さらに、なぜエルサは殺害の対象にならなかったのか?
スマイリーの結論は、サムエルの妻エルサ自身がスパイだったということだった。サムエルはそんな妻の行動に疑念を感じるようになり、あえて自分を告発して捜査当局と連絡を取り、妻を告発する準備をしていたのではないか。そして彼が死ぬ直前に自ら電話局にコールを頼んだのは、スマイリーと会いに出かけるための口実だったのではないか。
スマイリーはエルサを欺いて劇場におびき寄せるとともに、同時にディーターも劇場におびき寄せた。2人はそれぞれ互いの発意でやって来たと思っていたのだが、何者かにおびき出されたことを悟る。ディーターは危険を感じ、エルサを殺害して逃亡を図るが、スマイリーに追い込まれ、最後は抵抗の中で河に転落していった。。。
極めて緻密でよくできたストーリーです。細部にわたって違和感を全く感じません。
そして、スマイリーの魅力的な人物像は、この初期の作品においても早くも確立されている印象です。スマイリーは不釣り合いな美女のアンを妻として得ましたが、そのアンはキューバに駆け落ちしてしまいます。アンのことがスマイリーの心の片隅を常に占めています。そして、アンからやり直したいという趣旨の手紙を受け取ったスマイリーは、事件が解決すると、復職の依頼を断り、アンの待つチューリッヒに向かうところで、物語は終了します。冷静・沈着でありながら、アンのことになると冷静さが揺らいでしまうというギャップに、スマイリーの最大の魅力があるのかもしれません。