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エヴァ(リヴ・ウルマン)の下に、母親のシャルロッテ(イングリッド・バーグマン)がやってきた。エヴァがシャルロッテに手紙を書いて誘ったもので、7年ぶりの母娘の再会だった。
シャルロッテは、エヴァに対して一方的に話しかけるが、エヴァは戸惑い気味だった。また、難病を患っている妹のヘレナが療養所から帰宅していることを聞かされ、シャルロッテは露骨に迷惑そうな顔をする。
シャルロッテは真夜中に夢にうなされて起きたところ、エヴァも気がついて起きてきた。エヴァがこれまで母親に対して積み重なねてきた恨みが一気に爆発する。シャルロッテがピアノを弾くために家を出て行ったことについて、父娘たちがいかに傷ついていたか。エヴァが子どもを産んだときにシャルロッテが堕ろさせたことをエヴァがどれだけ恨んでいたか。シャルロッテの恋人がヘレナの病状をいかに悪化させる原因を作ったか。そんな怒りが爆発したのだった。
強気だったシャルロッテも、ついに反省の言葉を述べる。どうやったらやり直せるか?とエヴァに尋ねたシャルロッテだったが、エヴァの下を離れていき、母娘は二度と顔を合わせることはなかった。。。
この作品を見るとき、イングリッド・バーグマン自身の生涯と重ね合わせて見ないわけにはいきません。おそらく、ベルイマン監督もバーグマンの過去と重ね合わせながら、この作品を作っていったのではないかと思います。
ここでイングリッド・バーグマンの生涯を簡単に振り返ってみますと、バーグマンは1915年にスウェーデンに生まれます。誕生してまもなく母親を亡くし、やがて父親も亡くなります。バーグマンはエキストラに出演し、本格的に女優を目指す。
やがて歯科医と結婚し、一人娘ピアを授かるが、ハリウッドからオファーがあったことから、単身でアメリカに渡る。そして『カサブランカ』の出演で一躍スターダムにのし上がる。
その後、イタリアのロベルト・ロッセリーニ監督の『無防備都市』に感銘を受け、手紙を送ったことがきっかけでロッセリーニ監督の作品に出演することになり、、家族を置いてイタリアに渡ります。ところが、ロッセリーニ監督と熱愛し、3人の子どもを授かります。この不倫に対して、バーグマンはハリウッドから追放されます。
バーグマンはロッセリーニ監督の作品に出演し続けますが、いずれの作品も当時の評価は高くありませんでした。ロッセリーニは自分以外の作品にバーグマンが出演することを認めませんでしたが、やがてハリウッドから『追想』(アナスタシア)への出演オファーがあり、ロッセリーニの反対を押し切り、ハリウッドに再び渡ります。この作品でバーグマンは二度目のアカデミー主演女優賞を手にします。
やがてバーグマンはロッセリーニとも離婚し、ラルス・シュミットと再婚します。バーグマンはスウェーデンのダンホルメン島をこよなく愛し、過去の夫との間にできた娘たちをこの島に呼び寄せて過ごしていました。
そして、バーグマンは、故郷スウェーデンの巨匠ベルイマン監督に映画出演を懇願し、ベルイマンは『秋のソナタ』の台本を書きあげます。
この映画の製作の過程で、バーグマンとベルイマンは何度もぶつかります。特に、バーグマンが引っかかったのは、母親のシャルロッテが娘のエヴァの告白を受けて言う次の台詞。
「私が悪かったわ。許して。私を抱いて。触れるだけでもいいわ。助けてよ。」
バーグマンは、私はこんな台詞は言えない、私だったらこんな娘は平手打ちにして出て行く、と言い張ります。
2人はスタジオの外に出て怒鳴り合います。しばらく口論が続いた後、2人は顔を見合わせて笑いだし、再びスタジオ入りします。そしてバーグマンは元の台本の台詞そのままで素晴らしい演技をすることになります。
バーグマンはシャルロッテの感情が分からないので演じられないと主張したわけです。しかし、果たしてそれは本音だったのでしょうか?
確かにバーグマンは自分の人生を全く後悔していないと述べています。だから表向き、娘に対して懺悔することは、実生活と照らし合わせたときあり得なかったのでしょう。
バーグマンは生涯において娘を置いて映画に没頭した時期がありました。それを償うかのように、後年、娘たちとの交流を大事にしたのです。しかし、その背後には、やはり気ままに振る舞い続けてきたことに対する「負い目」があったのではないでしょうか。
つまり、『秋のソナタ』の懺悔の台詞の意味や台詞に込められた感情は、バーグマンは痛いほどよく分かった、だからこそ、ああいう台詞を言うことに対する強い抵抗感があったと言えるのではないでしょうか。
実は『秋のソナタ』の撮影中、バーグマンは既に乳癌と格闘している最中でした。撮影の4年後、バーグマンは亡くなります。
こうしたイングリッド・バーグマンの生涯と照らし合わせて『秋のソナタ』を見るとき、思わず感情が高ぶってしまいます。こんな作品にバーグマンを出させるベルイマン監督も、大したものです。
それにしても、イングマール・ベルイマンという監督は、観るものの心の奥底に、これでもかというほど訴えかけるほど、あからさまな描写で作品を仕上げる人です。それはある意味で残酷そのものです。
『処女の泉』でも目を覆いたくなるほどの無惨な描写でしたが、この『秋のソナタ』でも、難病を患うヘレナの描写などは、生々しく迫真に迫るものです。
「処女の泉」★★★★☆ - loisir-spaceの日記
シンプルな映像であっても、観た者の心に深く刻まれるような作品を作り出すベルイマン監督の持ち味が存分に発揮された作品と言えます。
イングリッド・バーグマンとイングマール・ベルイマンという2人の希有な才能の化学反応が産みだした奇跡的な作品と言えるでしょう。