映画、書評、ジャズなど

「知りすぎていた男」★★★★

 ヒッチコックの作品です。巧妙なシナリオに加え、ヒッチコックにしては珍しく涙をそそる感動的なシーンも併せ持った作品です。

 アメリカ人のベン・マッケナ(ジェームズ・スチュアート)と夫人のジョー(ドリス・デイ)は、息子のハンクを伴ってモロッコを旅行していた。ジョーはかつてブロードウェイで活躍したスターだった。途中、バスの乗客とのちょっとしたトラブルをきっかけに、ルイ・ベルナールと名乗るフランス人と知り合い、目的地で食事をする約束をした。
 ところが、ベルナールは急遽食事をキャンセルした。マッケナ夫妻が食事をしていると、ドレイトンと名乗る見知らぬ夫婦が声をかけてきた。
 翌日、マッケナ家族は市場を散策していたところ、現地人に変装したベルナールが誰かに追われ、背中を刺される場面に遭遇した。ベルナールはベンに対して、遺言を残す。それは、ロンドンで政治家が暗殺されるといった内容と、アンブローズ・チャペルという言葉だった。
 混乱の際、ドレイトン夫人が息子のハンクをホテルまで送り届けるはずであったが、ドレイトン夫妻はハンクを連れて知らぬうちにチェックアウトしていた。また、ベン宛てに、遺言の内容をもらせば息子の命が危ないという内容の脅迫電話もかかってくる。

 ベンとジョーの夫妻は急遽ロンドンへと向かう。ロンドンで面会した警部ブキャナンは、ベルナールが政治家暗殺阻止のためのスパイであったことを告げる。ベンはベルナールの遺言の内容を話すことを拒み、自らハンクを救おうとし、アンブローズ・チャペルに向かう。ベンは教会で説教をしているドレイトン夫妻を見つけたが、反撃に遭い気を失う。

 ジョーはブキャナン警部に連絡するが、ブキャナンは要人の警護のためにアルバート・ホールに向かっているという。ジョーはブキャナンを追ってアルバート・ホールに赴くが、そこで首相の暗殺計画を知る。オーケストラのシンバルが鳴らされるタイミングでピストルを撃つ計画であったが、その直前にジョーが悲鳴を上げたため、弾は首相をかすめただけで済んだ。

 ハンクは大使館に匿われているとにらんだベンは、命が救われた首相にコンタクトして大使館のパーティーに招待してもらい、夫妻は大使館に潜入する。かつてスターだったジョーは、パーティーで「ケ・セラ・セラ」の弾き語りをする。大使館に匿われていたハンクは母親の歌声に反応して口笛を吹く。それを聴いたベンはハンクを救出する。。。


 「ケ・セラ・セラ」の美しいメロディーと歌詞が非常に効果的に活かされている作品です。 モロッコのホテルで母子が「ケ・セラ・セラ」を一緒に口ずさんでいたシーンが、ラストシーンにきっちりと活かされています。オーケストラのシンバルに合わせて暗殺が実行されるという設定も、じわじわとその時が近づいてくる緊迫感を醸し出しています。音楽がストーリーのコアな部分でこれほど効果的に使われている作品は珍しいのではないかと思います。

 ドリス・デイはジャズ・シンガーとしても非常に素晴らしい録音を数多く残しています。♪Que sera seraを始め♪Sentimental Journeyなど、独特な情緒を醸し出す歌声が印象的です。

 ストーリー展開にやや強引さとややこしさを感じてしまう部分もないわけではなかったのですが、秀逸な音楽センスとヒッチコックとしては異色の感動仕立てがとても印象的な作品でした。