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ヴィカース・スワループ「6人の容疑者」

6人の容疑者 上

6人の容疑者 上

6人の容疑者 下

6人の容疑者 下

 アカデミー作品賞を受賞した「スラムドッグ$ミリオネア」の原作「ぼくと1ルピーの神様」を書いた著者による作品です。

 州知事の息子であるヴィッキー・ラーイが殺害された。ヴィッキー・ラーイは数々のスキャンダルを起こしてきた悪党であった。そして、ヴィキー・ラーイは、閉店時間を過ぎたバーで酒を強要したヴィッキー・ラーイに対して酒を出すことを断った女性バーテンダーのルビー・ギルに逆上して殺害した罪に問われていたのだったが、無罪の評決が出たことを祝うパーティーで殺害されたのだった。

 このパーティーの会場で銃を所持していた6名が容疑者として捉えられた。それは、元事務次官で時折ガンジーの魂が乗り移るという人物、インドを代表する美人女優、黒人の部族民、身分の低いカーストに属して泥棒に手を染めていた男、インドの美人と文通で婚約したといってアメリカから渡ってきた若者、そしてヴィッキー・ラーイ自身の父親の6名だった。。。

 それぞれがそれぞれの事情で銃を所持してこのパーティー会場にたどり着いた経緯が次第に明らかになってくるとともに、それぞれの物語が次第に結びついてくる進行は鮮やかです。

 本作品の著者は現役のインド政府職員であるばかりか、しかも現在は大坂で総領事を務めている方です。それだけでも十分興味深いのですが、本作品の魅力を更に高めているのは、インドの暗部をせきららにさらけだしている点です。

 政府高官が日常的に不正を行い、身分の低い者たちにそのしわ寄せがいく現状。厳然たるカースト間の断絶があり、不相応の身分間では恋愛さえ許されないという社会。少数民族が主流民族によって収奪されている様相。

 政府職員がここまでインド社会の暗部をひけらかしてしまってよいのだろうか、とさえ思ってしまいますが、著者の強い正義感とインド社会の現状に対する危惧の表れなのでしょう。

 訳者あとがきによれば、本作品は、1999年にデリーで起きた「ジェシカ・ラール事件」がモデルとなっているようで、この事件でも議員の息子がパーティーの接客係の元モデルが酒を出すことを断ったために射殺し、一旦は無罪となったものの、その後終身刑になったそうです。

 作品中にはスパイスの利いたユーモアがあちこちにちりばめられ、訳も読みやすいので、読む人を飽きさせません。楽しみながら読み進めていく中で、社会の深層部がえぐり出されるところに、フィクションの最大の魅力があるのかもしれません。