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「ジャズ・ミー・ブルース」★★★

 伝説の白人トランペッターのビックス・バイダーベックの生涯を描いた作品です。

 ビックス・バイダーベックは、ジャズの黎明期に主に黒人ミュージシャンが活躍する中で、白人ミュージシャンとしてビブラートの少ない独特のスタイルを築いた人物です。その軽快なスタイルは多くのファンを魅了してきており、ジャズ評論家の油井正一氏は、

「時々ぼくは「最も好きなミュージシャンは誰か?」という質問をうける。いつでも「ビックス・バーダーベック」と答える。」

と述べています。

ジャズの歴史物語 油井正一

ジャズの歴史物語 油井正一

 ビックスは独学でコルネットを習得したため、楽譜を読めなかったのですが、幼少の頃からその溢れる才能を発揮します。両親の強い反対を受けたため寄宿舎に入れられますが、その寄宿舎がシカゴから汽車で行ける場所にあったため、ビックスは寮の規則を破って、シカゴのジャズクラブに入り浸るようになります。

 やがてビックスは「ウルヴェリンズ」というバンドを組んで活躍を始めます。作曲家として数多くの名曲を残したホーギー・カーマイケルとも親交がありました。また、ポール・ホワイトマン楽団にも参加し、ソロイストとして花咲かせます。

 しかしながら、酒に溺れて体を壊し、28歳の若さで亡くなります。

 この作品は、こうしたビックスの生涯を描いているのですが、正直にいえば、映画としての出来はあまり良くありません。人物の描写が中途半端で、時間もあちこちに飛ぶので、ストーリーを追いにくいという難点があります。ビックスがなぜ酒に溺れていかなければならなかったのかをもう少し深く分析するやり方もあったのではないかと思います。

 人種差別が激しかった時代にあって、ジャズは黒人の音楽でした。そういう中でビックスは、憧れの黒人ミュージシャンとの共演が許されない状況で自らのスタイルを確立していかなければなりませんでした。そういう葛藤がビックスを酒に溺れさせ、命を縮めたという側面もあったはずですが、そうした背景はこの作品では一切描かれていません。なので、どこから中途半端に終わってしまっている観があるのです。

 作品の質はさておき、ビックス・バイダーベックの残した音楽は大変印象的で素晴らしいので、是非聴いてみてください。

Singin the Blues 1

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At the Jazz Band Ball 2

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