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映画、書評、ジャズなど

「瞳の奥の秘密」★★★★☆

http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD16652/index.html
 アカデミー賞外国語映画賞を受賞したアルゼンチンの作品です。

 裁判所を定年退職したばかりのベンハミンは、25年前の残虐な事件を小説化しようと決意する。その事件とは、銀行員モラレスの妻リリアナが乱暴の上殺された事件だった。容疑者として、リリアナの幼なじみの男ゴメスが浮かび上がる。数々の写真でゴメスがリリアナをじっと見つめていたからだ。ゴメスは一旦失踪するが、やがて捕らえられ、服役する。事件の後、毎日駅でゴメスを執念深く追い続けていたモラレスにもその報は伝えられる。

 ところが、服役しているはずのゴメスが大統領の警護を務めていることがテレビ映像から発覚する。警察高官の手が回っていたのだった。

 それから25年後、ベンハミンはモラレスの元を訪れる。モラレスはあの事件のことを忘れろとベンハミンに言う。しかし、モラレスはあの事件を決して忘れておらず、自らの手でゴメスを終身刑に処していたのだった。。。


 これだけ見ると、本作品は、巧妙に仕組まれたミステリーというだけになってしまうのですが、この作品の優れた点は、作品の主題がミステリーからいつの間にか恋愛へと移り変わっていく点にあります。

 ベンハミンは小説を書き進めていくうちに、元上司でエリート女性イレーネに対する熱愛の情が再び記憶の底から浮かび上がってくるのです。エリート女性のイレーネとベンハミンとは学歴からして釣り合わず、イレーネは別の男と結婚し、子どもも2人授かることになるのですが、25年経った今、当時の恋愛感情が未だに2人の間をつないでいることを徐々に自覚していきます。モラレスの執念のみならず、イレーネとベンハミンとの恋愛も25年の歳月を生き続けてきたわけです。この2つの柱に支えられることによって、本作品の厚みがより一層増していることが分かりますし、また、ミステリーのおどろおどろしさが、恋愛の要素によって中和され、実に後味の良い作品に仕上がっています。

 また、本作品では、アルゼンチン社会の状況もよく描かれています。イレーネとベンハミンとの間の関係から、アルゼンチン社会は白人中心の社会であっても、実は階級が存在する社会であることが分かります。また、犯罪者が突然大統領の警護に抜擢されるなど、政権の腐敗ぶりも描かれています。

 さらに、タイトルが象徴しているように、本作品は、登場人物に余計な台詞を言わせる代わりに、瞳の表情やしぐさによって、登場人物たちの心理が伝わってきます。これは、俳優陣のレベルの高さによるところでもあります。

 近年、良い映画というのはハリウッド以外のところから続々と生まれてきているような気がします。久々の良作を劇場で見た気がしました。