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金沢ジャズストリート3日目

 金沢ジャズストリートも今日で3日目です。

現代アートの魅力

 午前中はライブが特にないので、昨年に引き続き21世紀美術館に足を運びました。相変わらず混雑しており、依然として人気を保っているような印象です。
 常設展のほかに、「ペーター・フィッシュリ ダヴィッド・ヴァイス」の特別展が開催されていました。
http://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=19&d=854
この展覧会は映像でメッセージを伝える現代アートが中心で、作者らがネズミと熊に扮して現代風刺をしている《ゆずれない事》や、
http://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=19&d=854
真っ暗な部屋の壁面に次から次へと現代社会における様々な問いが映し出される《質問》
http://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=19&d=854
などが特にインパクトがありました。
 おそらく現代アートをきちんと理解している人は数少ないと思いますが、それでもこれだけの人々を惹き付ける力を持つ現代アートのすごさを改めて実感しました。
 この美術館の敷地は元々金沢大学の附属学校の敷地だったことは有名ですが、そんな程度の広さの敷地が現代アートの美術館によって世界から人を呼べる観光の目玉スポットになってしまうのだから驚きです。一番驚いているのはもしかするとこの美術館を設計した妹島和世氏と西沢立衛氏かもしれません。この美術館のコンペ以降次から次へと大きな仕事が舞い込んでくるようになったようです。
 フランク・ゲーリーはこの美術館を見て、「これはデモクラティックだ」「まるで小学校みたいで、確かに美術館だ」と言ったそうですが、この街中の開放的な空間は私にも同じような感想を抱かせます。

古き良き時代のアメリカジャズ

 さて、午後はまず学生バンドをチェックです。香林坊同志社大学のバンドが演奏していましたが、ディキシーランド・ジャズとニューオーリンズ・ジャズを中心とした軽快なリズムを奏でるレベルの高いバンドで、大勢の聴衆をしっかりと釘付けにしていました。

 このジャズストリートで街角のあちらこちらにステージが設定され、聴衆の座席が設置されているのですが、大抵どこも椅子が埋まるくらいの人気ぶりです。この同志社大学のバンドもやはり座席一杯の聴衆と大勢の立ち見客で溢れていました。これだけあちこちにステージが設置され、同時進行で多くのバンドが演奏しているにもかかわらず、どれも多くの聴衆を集めているということは、相当数の聴衆が市内に集結しているということでしょう。おそらく昨年よりも多くの動員数をはじき出しているような気がしました。
 また、金沢の人たちは実にジャズの鑑賞の仕方を知っていて、学生バンドに惜しみない拍手と歓声を送っています。こういう街で演奏できる学生バンドやプロのバンドは本当に幸せだと思いますし、こうした楽しみ方を知っている金沢市民も人生の楽しみを知っている点で幸せだと思います。

 その後のエヴァン・クリストファー・クラリネット・ロードも伝統的なジャズ・サウンドを聴かせてくれました。
http://www.kanazawa-jazzstreet.jp/concert-20.html
ニューオーリンズ大学で教鞭を執っているだけあって、ニューオーリンズの伝統的なジャズをベースにしたとても軽快な演奏が繰り広げられました。エヴァン・クリストファーの演奏するクラリネットは初期のジャズにおいては大変重要な地位を占めていました。他のメンバー構成は、アコースティック・ギターとベースがリズムを刻み、エレキ・ギターがソロを奏でるといった構成で、この4人が各人とも大変なレベルの技術の持ち主でした。ベースは弦をばんばん叩きながらの独特な奏法でしたし、ギターの2人も自分たちの役割を淡々と正確に勤め上げていました。
 感銘を受けたのは、エヴァン・クリストファーのMCです。ニューオーリンズ・ジャズとヨーロピアン・ジャズの接点を知的かつ饒舌に語る口調には大変好感が持てました。ジャンゴ・ラインハルトからデューク・エリントンシドニー・ベシェにまで及ぶ大陸をまたがる物語は壮大なもので、ステージ終了後に思わずジャンゴ・ラインハルトにちなんだエヴァン・クリストファーのCDを2枚購入してしまいました。

3日間の総括感想

 これで今回の金沢ジャズストリートの鑑賞は終了です。昨年も素晴らしい顔ぶれでしたが、今年も顔ぶれの豪華さはひけをとっていませんでしたし、熱気という意味でも大成功と言えるでしょう。
 とりわけ、韓国のWINTER PLAYや中国の夏佳(シャージャー)など、アジア勢が多くの聴衆の熱いまなざしを集めていたのが印象的でした。本場アメリカのジャズももちろん素晴らしいのですが、ただ、アメリカのジャズ人気の下火を反映してか、若者たちが新しい演奏を切り開いていこうという熱気にどこか欠けているような気がします。それに比べ、韓国や中国はジャズはこれからの音楽といった感じで、若者たちがジャズを斬新に採り入れながら前に突き進んでいるような印象を受けるのです。
 ですから、来年はこうしたアジアの若手ジャズ・ミュージシャンたちを掘り出して招致するなどして、金沢をアジアのジャズ・シーンの最先端に仕立て、このジャズストリートをアジアの若手ジャズ・ミュージシャンたちの登竜門とするのが良いのではないかと感じました。おそらく、アジアの若手ジャズ・ミュージシャンたちは、アメリカのミュージシャンたちに比べればそれほど招致にお金もかからないでしょうし、同じお金でもその方が質の高い演奏が堪能でき、しかも金沢らしさが出せるのではないかと思います。
 ヨーロッパのジャズも今回のフランスだけでなく、イタリア、オランダなど勢いのある国がありますので、そういった国から若手で勢いのあるミュージシャンたちを招致してくるのが良いでしょう。

 また、和と洋の融合という側面ももっと強調されてもよいかもしれません。金沢はもともと加賀藩の城下町で、兼六園金沢城、あるいは長屋街や茶屋街のような和の情緒溢れるスポットが数多く見られます。そこに近年では金沢21世紀美術館ができ、既に和と洋の融合が実現されている面もあるわけです。ここにジャズという洋の要素をさらに付け加えることで、さらなる融合効果をもたらし、金沢全体の魅力がより一層アップすることが期待できます。

 それにしても、この不景気な中でこれだけ盛大なジャズ・フェスを開催できるのですから、金沢市は本当に恵まれた都市です。東京ジャズなど圧倒的な資本力を背景としたものを除けば、これだけ国際色豊かで、学生からベテランまでが勢揃いする手作りのジャズ・フェスは他には見られません。この流れが絶やされないことを心より願うばかりです。

 今年も心より楽しめた3日間でした。