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金沢ジャズストリート1日目

 金沢ジャズストリートも今年で2年目。今年も金沢にやってきました。昨年にも劣らぬゴージャスな顔ぶれが集結しており、楽しみです。

 このジャズのイベントは、ホールでのステージに加え、市内あちこちの街角広場で繰り広げられるステージ、夜のライブハウスでのステージなどなど、3日間の間に到底数え切れないほどのライブが展開されるのは大きな特徴で、うまくスケジュールを組まないと見たいステージを見逃してしまいます。

新鮮な学生バンドたち

 金沢に到着してまずは香林坊の広場で演奏された青山学院大学のロイヤル・サウンズ・ジャズ・オーケストラ(ROYAL SOUNDS)の演奏が目に入りました。

 学生らしい新鮮なビッグバンドで、選曲は若者らしくやや前衛的なものやハードロック調のものが多かったですが、学生たちが自信に満ちた顔つきで堂々と演奏しているのは大変頼もしく感じました。

チャリートwithアラン・ブルネ

http://www.kanazawa-jazzstreet.jp/concert.htmlhttp://www.kanazawa-jazzstreet.jp/concert.html
 そして今年の目玉の一つであるチャリートwithアラン・ブルネ(Alain Brunet)・カルテットです。チャリートの名盤であるミシェル・ルグランのアルバムのバックバンドを務めた面々の初来日です。
 演奏された曲目はやはりルグランの曲が中心で、特に光っていたのは、ピアノのアラン・マイヤラ(Alain Mayeras)です。フランス人によるジャズ演奏はアメリカ人のジャズ演奏とはひと味違った洗練さがあります。同じジャズでも、アメリカン・ジャズに比べてスマートなアレンジとなっているのです。このアラン・マイヤラの演奏はいかにもフランス人らしいスタイルでした。
 ヴォーカルとピアノのデュオで演奏された映画「華麗なる賭け」の主題歌♪The Windmills of Your Mind、最後に演奏された♪The Summer Knowsがとりわけ印象的でした。また、ルグランの曲だけでなく、シャンソンの曲もいくつか演奏され、エディット・ピアフの♪バラ色の人生の演奏などが良かったです。

松風閣の夕べ

 次に足を運んだのは、北陸放送の建物の裏手にある日本庭園「松風閣」で開催されていた韓国のウィンタープレイ(WINTERPLAY)というバンドと平賀マリカさんのステージです。木造の建物の中の座敷からもステージが見られるように設定されており、大変リラックスしたムードの中でのステージでした。ステージの上方には月が雲に隠れたり姿を現したりと繰り返し、また、虫の音が響いている中でのジャズ演奏というのは、和と洋の見事な折衷と言わざるを得ず、それだけでも満足してしまうシチュエーションです。
 ウィンタープレイという韓国のバンドは、トランペット奏者のジュハン・リーを中心とするグループです。
http://www.kanazawa-jazzstreet.jp/yoru.html
 女性ヴォーカルのへウォンは容姿スタイル抜群で、かつ歌声も大変ジャジーで、何を歌わせても立派なジャズになってしまう方です。ノラ・ジョーンズの♪Don't Know Whyはへウォンの声質に大変マッチしていましたし、ナット・キング・コールなどが歌ったスタンダード♪Route66は大変独特で素晴らしいアレンジでした。ギターの切れのある演奏やリーダーのジュハン・リーの流暢な英語にも感心してしまいました。演奏が実にスウィングしており、韓国のジャズ・シーンもこれから面白くなるという期待感を抱かせたバンドでした。
 平賀マリカさんのステージはカーペンターズやおなじみに映画音楽を中心とした構成です。ルックスや声がきれいなので、松風閣のような場所には向いている方かもしれません。初心者向けには良かったのでしょうが、ジャズファンからすればもう少し本格的な選曲がほしかったところでしょうか。

中国ジャズの新星

 その後足を運んだのは、夏佳(シャージャー)トリオと嶋津健一トリオです。これらのライブは片町の交差点のすぐそばにある「ex.KENTO'S」というジャズクラブで開催されました。
http://www.kanazawa-jazzstreet.jp/yoru-18.html
 夏佳(シャージャー)は若手中国人ジャズピアニストで、パンフレットのふれこみに「中国のインテリジェンス溢れるピアノトリオ」とあるように、実に洗練された演奏を展開しました。ベースの張柯も中国人で、2人とも体育会の五分刈りのような短いヘアースタイルで、ルックスには無頓着といった風貌なのですが、逆に音楽には真剣に向かい合って演奏に取り組んでいる姿勢が伝わってきます。曲目はオリジナル中心でしたが、最初の方の曲はチック・コリア風、後半の曲はビル・エヴァンス風と、幅広い演奏スタイルを披露していました。アンコールの曲はスタンダード・ナンバー♪It Could Happen To Youで、この演奏がまた大変洗練されたアレンジと洗練された緩急自在のキータッチで、心底素晴らしいと実感させられました。中国のジャズミュージシャンというのはあまり日本では知られておらず、おそらくジャズ人口もそれほど多くはないのかもしれませんが、そのポテンシャルの高さを見せつけられました。ジャズという反抗の象徴のような音楽ジャンルですが、夏佳のような知性溢れたミュージシャンを見ていると、これから中国でもどんどん優秀なジャズ・ミュージシャンたちが育っていくのかもしれないと思わざるを得ません。

 続いての嶋津健一トリオはオリジナルとジョニー・マンデル、ミシェル・ルグランの曲などを交えた構成でした。ややオリジナルが多かったかなという感じを受けたものの、安定した演奏を見せてくれました。

1日目雑感

 というわけで初日が盛りだくさんで終了したわけですが、金沢ジャズストリートは2年目にしてだいぶ安定した軌道に乗ってきたという印象です。地方のジャズ・フェスがことごとく廃止や規模縮小という災難に見舞われている中、金沢のように海外から大物ミュージシャンたちを続々と呼んでこられるのは本当に幸せなことだと言わざるを得ません。国内外のプロのミュージシャンたちに加え、金沢ジャズストリートにはアマチュアも数多く参加し、街のあちらこちらで演奏を繰り広げています。しかも、そのいずれの会場も聴衆でにぎわっています。これは、金沢市民の文化レベルや教養の高さを表しているといえるでしょう。他の都市であれば多くの人々が素通りしてしまうところを、金沢市民は足を止めて、ミュージシャンたちに惜しみない声援を送ります。加賀藩以来の文化的伝統がこうした点に引き継がれているのかもしれません。

 ちなみに、帰り際にジャズ喫茶「YORK」に立ち寄りました。マダムが店を切り盛りしており、控えめであるものの親切に迎えてくれます。やはりジャズ喫茶で聞くレコードの音は違います。この「YORK」で今日1日の興奮を冷まして、帰途についたのでした。。。