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映画、書評、ジャズなど

マイケル・サンデル@ハーバード白熱教室

http://www.nhk.or.jp/harvard/index.html
 NHKはしばしば良質の番組を提供してくれますが、日曜日夕方の教育テレビで放送中のハーバード白熱教室は実に素晴らしい企画です。ハーバード大学の熱心な学生たちを前に熱弁を振るう政治哲学の第一人者マイケル・サンデルの講義は、今日の我が国の公共政策を考える上でも実にタイムリーな内容で、平易かつ深遠な議論を展開しています。

 4/18放送分は3回目の講義でしたが、サンデルの批判対象であるリバタリアニズムを取り上げた回であったこともあり、おそらく特に熱の入った講義だったのではないかと思います。リバタリアニズムの見解としては、ご存じのとおり各個人の所有権を絶対視するノージックの見解を取り上げ、学生を巻き込んでの議論を展開していました。

 リバタリアニズムが今日の市場原理主義の原型であることは疑いありません。つまり、分配の問題は市場に委ねるという発想で、政府が課税をして再分配することに対して極めて懐疑的な立場です。経済学でいうとミルトン・フリードマンの議論がその典型であり、我が国でも小泉・竹中主導の政策や「法と経済学」の主張がこれに当たります。

 サンデルは、ビル・ゲイツマイケル・ジョーダンなどの高給取りを例に挙げながら、例えば彼らに課税してカトリーナによって被害を受けた貧困層の人々を支援することの是非について学生たちに議論させます。リバタリアニズムの立場からすれば、たとえ貧しい人々に対して支援する目的であったとしても、裕福な人々の稼ぎを取り上げることは裕福な人々に奴隷作業をさせることを意味するものであり、認められないということになるわけですが、もちろんサンデルはこうしたリバタリアニズムの立場に極めて懐疑的で、共同体の共通善を唱えるコミュニタリアニズムの立場をとります。

 こうした政治哲学の議論は、正に我が国の今日の政策課題、例えば郵政民営化法人税課税水準の問題などを考える基礎となるべきものですが、我が国では政策立案を考える上でこうした政治哲学の議論が考慮されることは極めて稀であると言ってもよいでしょう。官僚など公共政策の立案に携わる人たちも、学生時代にロールズノージックサンデルといった政治哲学に触れる機会はほとんどありません。他方、全世界から優秀な人材が終結するハーバードでは、こうした高度は授業が極めて平易な言葉で語られており、しかも大人気授業となっているのです。

 アメリカの大学の懐の深さをまざまざと見せつけられた感じです。

 この企画、あと数回続くようで、次回以降のサンデル教授の講義が楽しみです。過去2回の再放送も次の週末に予定されているので、これは必見です。