- 出版社/メーカー: ファーストトレーディング
- 発売日: 2006/12/14
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ニューオリンズの街にある高貴な母と娘が移ってくる。娘のミラリーはオペラシンガーとしての成功を目指しているが、家政婦(ビリー・ホリデイ)に連れられてニューオリンズの街でニックの経営する賭博場に出かけ、そこでルイ・アームストロングらによって繰り広げられるラグタイムの演奏の虜になってしまう。その賭博場には、ミラリーの舞台の指揮を引き受けていた老練な指揮者も隠れて出入りしていた。当時はまだ白人上流階級の間では、ラグタイムは悪魔の音楽だったのだ。
ミラリーはニックに惚れるがニックはミラリーが今後店に出入りしないよう、追い払ってしまう。ミラリーがラグタイムやブルースに傾倒していくことを快く思わない母親は、金の力でニックに圧力をかけ、ニックはニューオリンズの街を追い出されてしまい、シカゴへ向かう。
シカゴにはルイ・アームストロングらも一緒にやってきて、ラグタイムの演奏はあっという間にシカゴ市民を虜にしてしまう。やがてラグタイムは「ジャズ」と呼ばれるようになる。やがてニックらはニューヨークにも進出し成功を収めるのであるが、ただ唯一高い壁として立ちはだかったのは、シンフォニー・ホールでのジャズの演奏が認められないことで、ニックはいつかホールでのジャズの演奏を実現させようと心に誓う。
他方、ミラリーらはヨーロッパに赴きオペラで成功を収めるが、それに飽きたらず、再びアメリカのニックのそばに戻ってくる。ニックはミラリーがホールでコンサートを行うことを知り、迷った末に足を運ぶ。そこでミラリーは、ニューオリンズを偲んでブルースの歌を披露する。観客たちはミラリーの歌に盛大な拍手を送る・・・。
この作品には、ルイ・アームストロング、ビリー・ホリデイ、そしてウディ・ハーマン・バンドなど、ジャズファンにしてみれば蒼々たる面々が生の演奏を展開してくれるわけで、それだけでも魅力的な作品です。
ストーリーも、実際の史実とはもちろん異なるものの、ジャズの歴史を分かりやすく描いており、ジャズが創成期において置かれていた立場がよく分かります。
まず、ジャズとクラシックとの間の葛藤です。白人上流階級にとってはジャズは穢らわしい音楽でしたが、そんな中で、ジャズの魅力に取り憑かれていく人々が増えていき、国民的音楽へと発展していったというイメージがうまく表現されています。クラシック界の大御所が実は隠れたラグタイム・ファンであることがジキルとハイドにたとえられているのは、なかなか面白いシーンです。
それから、ジャズがニューオリンズから次第にシカゴへと展開していったことも、作品の中で表現されているとおりです。この作品ではルイ・アームストロングはニックについてシカゴに向かったことになっていますが、ルイがジョー・オリバーに誘われてシカゴへと向かったことはよく知られていますので、史実とはもちろん異なっています。しかし、ニューオリンズ→シカゴ→ニューヨークというジャズの展開はこの作品に描かれているとおりです。
コンサート・ホールでの演奏の実現がジャズにとって突破すべき大きな壁であったことも、ジャズの歴史にとって重要な点です。『ベニーグッドマン物語』でもベニーグッドマンが最後カーネギーホールで演奏する場面で終わりますが、ジャズ・ミュージシャンたちにとって、コンサート・ホールでの演奏が認められるということは、白人上流階級においてジャズが正式に認められることに等しかったわけです。ラストの、クラシックとジャズのバンドが混在して演奏を繰り広げるシーンは圧巻です。
これはジャズ・ファンにとってはやはり必見の作品でしょう。