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「バード」★★★★☆

バード [DVD]

バード [DVD]

 ビバップ創始者の一人チャーリー・パーカーの生涯をジャズ好きのクリント・イーストウッド監督が描いた作品です。先日NHKの衛星放送で放映されていたようですが、見損なってしまったので、DVDを購入して鑑賞しました。

 バード(チャーリー・パーカーの愛称)は、ビバップで次第に人気を高めている中で、ダンサーのチャンと出会い結婚する。しかし、薬に溺れるバードの家庭生活、娘の死やバードの自殺未遂などで、決して平穏なものではなかった。やがて、ジャズはロックに取って代わられていき、バードは失意に打ちのめされる。肝硬変や潰瘍で体もぼろぼろになる中、バードは男爵夫人のニカのアパートでコメディー・ショーのテレビ番組を見ている最中に、心臓麻痺で死んだ。医師の推定年齢は65歳、実際は34歳だった・・・。

 バードの死後数十年経つと、ジャズ・ミュージシャンたちはこぞってバードを賞賛するようになり、今では伝説的なジャズ・ミュージシャンとして尊敬を集めるバードですが、存命中は相当精神的に病んでいたようです。この作品の中でも、若き日のオーディションで途中で演奏を止められた屈辱的なシーンが何度も回想されます。麻薬中毒で命を落とした父親の遺体と対面し、バード自身の将来の姿だと言われるシーンも何度も回想されます。

 他方、バードはロマンティックで繊細な面も持ち合わせていました。作品中でも、妻となるチャンの気を引くために、自身のサックスを質に出して馬を借りて登場したりするシーンがあります。

 印象的なシーンとしては、バードとガレスピーが2人で海岸で対話する場面があります。ガレスピーは自分がなぜバンドのリーダーとして成功しているかについてバードに説明します。ガレスピーは、自分は「改革者」、バードは「殉教者」だと位置付けます。白人たちは黒人は約束を守らないという目で見ているから自分は時間に遅れないようにするのだ、他方、殉教者は死後も尊敬され続けるのだ、とガレスピーはそんな趣旨のことを言います。ガレスピーとバードの違いを浮き彫りにする場面です。

 さて、バードが息を引き取ったのは、男爵夫人ニカのアパートでしたが、このニカとは一体何者でしょうか。ニカことパノニカ・ケーニングスウォーターはユダヤ人の世界財閥ロスチャイルド家のイギリス分家の末裔で、セロニアス・モンクを始め多くのジャズ・ミュージシャンたちを支援した人物として知られています。♪Nica's Dreamを始めニカにちなんだ数多くの曲が作られています。

 ニカは生前、ミュージシャンたちに3つの望み(Three Wishes)を尋ねてこれを書き留めておいたようです。それが“Three Wishes”というタイトルの本になって出版されています。

Three Wishes: An Intimate Look at Jazz Greats

Three Wishes: An Intimate Look at Jazz Greats

  • 作者: Nica de Koenigswarter,Gary Giddins,Nadine de Koenigswarter
  • 出版社/メーカー: Harry N. Abrams
  • 発売日: 2008/10/01
  • メディア: ペーパーバック
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 この夫人については、ヴェールに包まれた面が多いのですが、いつかよく調べてみたいと思っています。

 イーストウッド監督のジャズ・ミュージシャンたちに対する敬愛の念が伝わってくる作品です。