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広義の文化政策 不可欠な軸

 9月25日の読売新聞朝刊で、慶応大の渡辺靖教授が民主党文化政策について興味深い指摘をされています。

民主党が予算の無駄遣いの象徴として批判してきた「アニメの殿堂国立メディア芸術総合センター)」の建設中止を、川端達夫文部科学相が表明した。しかし問題が政争の具と化す一方、文化政策に関する議論が一向に深まらなかったのが残念だ。民主党には「国営マンガ喫茶」という稚拙な批判ではなく、次世代の文化発信・交流や知的財産権のあり方にも言及してほしかったし、自民党側の反論も本質的ではなかった。

 この点は私も全く同感です。

 渡辺教授は、アメリカのオバマ政権が芸術振興策を積極的に打ち出しているのと比較しつつ、民主党の政策の中に文化の要素が欠けていることを指摘されています。

 オバマ大統領は「芸術組合の創設」「全米芸術基金(NEA)への助成額増額」「文化外交の促進」といった内容を打ち出しています。

http://www.barackobama.com/pdf/issues/additional/Obama_FactSheet_Arts.pdf

 これに対して、民主党マニフェストの中には、文化という言葉が一回も出てこないと渡辺教授は指摘されています。

 文化政策は日本のソフトパワー、つまり世界から見た日本の魅力の増大に直結するものです。海外からの尊敬を集めなければ、友愛外交だって成立しないでしょう。「アニメの殿堂」批判を展開する民主党の政策が「無駄遣い」や「ハコもの」という上滑りしたキーワードによって上滑りした感じに見えてしまうのは、こうした深みを持つ主張が伴っていないからです。

 以前の記事にもたびたび書きましたが、世界の文化政策ではハコものこそが重視されているわけです。ビルバオグッゲンハイム美術館がその典型ですし、パリやニューヨークの著名な美術館だって、立派なハコものです。立派なハコがなくてはいくら中身を充実させようとしたって、多くの人を集めるだけの魅力を備えることはできないのです。

 我が国では金沢21世紀美術館が多くの観光客を集める魅力的な美術館として挙げられるわけですが、9月16日の読売新聞夕刊において、館長の秋元雄史さんが大変説得力のある議論を展開されています。美術館はディズニーランドに学べ、というのです。

美術館にとって最良のお手本は、東京ディズニーランドTDL)のような魅力あるテーマパークだと考えている。テーマに沿って構築された1つの仮想世界が、日常とは全く違った特別な体験ができるという大きな期待感を抱かせ、ずば抜けた集客力につながっていると思う。・・・美術館に足りないものがあるすれば、TDLのような期待感を抱かせるだけの仕掛けや工夫ではないか。

 そして秋元氏は、美術館単体ではなく、地域全体がテーマパークのような発想で仮想世界を構築していくべきだと指摘されています。

美術館が単体でテーマパークをまねるのは無理な話だ。周辺の施設や環境を巻き込み、近隣の住民の方々から協力を頂けば、地域全体でテーマパークのような仮想世界を創出し、美術館や作品の魅力を何倍にも高め、やって来る人に大きな期待感を抱かせるだけの魅力を発揮できるはずだと考える。

 ここで「アニメの殿堂」に話を戻すと、「アニメの殿堂」もこの21世紀美術館と同様に、テーマパークのような仮想世界を作らなければ、多くの観光客を惹き付けることはできません。チープな施設ではそんな魅力を備えることは極めて困難です。チープなディズニーランドなんて想像できないのと一緒です。

 21世紀美術館もスタートさせるのに土地代、建築代として200億円をつぎ込んでおり、その結果、初年度の経済波及効果は328億円だったそうです。一地方都市でさえこれだけのお金をかけているのに、国が我が国の文化をPRするために国家の威信をかけて推進しようという事業に百数十億円の費用をかけることが、どうしてここまで批判にさらされなくてはならないのでしょうか。やはり、選挙中の政争の具にされたことの悲哀と言わざるを得ません。

 欧米を見ても分かるように、文化政策は国家百年の計です。我が国が世界的にPRできる文化であるアニメやマンガもそういう視点で論じられなければなりません。