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映画、書評、ジャズなど

蓑豊「超・美術館革命―金沢21世紀美術館の挑戦」

超・美術館革命―金沢21世紀美術館の挑戦 (角川oneテーマ21)

超・美術館革命―金沢21世紀美術館の挑戦 (角川oneテーマ21)

 先日の金沢市の訪問で足を運んだのが、本書のテーマである金沢21世紀美術館です。著者は初代の館長を務められた方で、本美術館を世界的に有名な美術館へと仕立て上げた立役者です。いかなる取組が実を結んで成功がもたらされたかを、分かりやすく解説しており、美術館関係者のみならず、文化による観光促進を目論む様々な関係者にとって必読の書と言えます。

 この美術館のコンセプトは「市民の応接間」、つまり市民の憩いの場となるような美術館です。敷居の高かったこれまでの美術館に比べ、この美術館は市民がぶらりと立ち寄ることができるほどの身近さを実現しています。

 その一つの象徴は子どもです。多くの子どもたちが遊びに来る「にぎやかな美術館」というのは、これまでの厳かな美術館のイメージを一変させるものです。作品も子どもたちにも分かるような、というよりも子どもだからこそ分かるような作品が展示されています。

 興味深いのは、子どもたちを呼ぶための戦略です。蓑氏は金沢市内の小中学生を無料招待することとします。さらに、子ども向けのパンフレットに「もう一回券」という子ども用の無料券を付けたのです。子どもは自分の分のチケットはあるので、親にせがんで美術館に連れて行ってもらおうとしてますので、親が美術館に引き寄せられることになります。この「もう一回券」は1年で7千枚以上回収されたと言いますから、この戦略の効果の大きさが分かります。

 このほかにも、興味深い取組が多々あります。例えば、美術館の工事に関係した方々の名前を刻んだプレートの設置。これによって、プレートに名前が刻まされた人のみならず、その親族なども美術館に足を運ぶ効果が期待できます。

 また、森美術館や直島にあるベネッセの地中美術館と提携してスタンプを集めることでプレゼントがもらえるという企画。遠く離れた美術館同士をつなぐというのも、なかなかのアイデアです。

 著者は、美術館経営における資金集めの重要性をとりわけ強調しています。人を説得して資金を集める能力が、美術館の館長のみならず、一人一人の学芸員に求められるというのです。学芸員にもプレゼンテーション能力が求められるというのです。

 シカゴ美術館での著者自らの経験として、人脈を駆使して銀行や政治家と接触して資金を引き出したという例が紹介されていますが、なかなかの策士です。

 美術館とは直接関係ありませんが、著者は小学4年生の重要性を強調しているのは興味深い点です。小学4年生は何でも興味を持つ年頃なので教えるのが楽であることから、凡庸な先生にも務まる。しかし、実は小学4年生こそクリエイティブな先生を担当させるべきなのだ、という持論です。まぁ、そんなもんかなぁという気もします。

 とにかく、この金沢21世紀美術館は、こうした著者の精力的な取組の甲斐あって、地方美術館としては異例の集客に成功することになります。年間の来館者数は138万人、当初の目標を大幅に上回ります。ルーブル美術館のやり手の館長アンリ・ロワレット氏も注目しわざわざ足を運んだほどです。

 私も今回の金沢滞在中、実際にこの美術館に何度か足を運びましたが、金沢の中心地の香林坊から兼六園に向かう途中に位置していることもあり、しかも、周囲が芝で覆われた開放空間となっているので、自然と足が引き寄せられる感じを受けました。本当に立地条件に恵まれています。

 展示物が良いとか素晴らしいとかいう感じは全く受けなかったのですが、とにかく一風変わった風貌の建物が魅力を高める上で大いに貢献しているような気がするわけです。まず芝生の緑に惹かれて敷地内に入っていくと、そこには風変わりなラッパ状の造形物が散らばっています。そのうち、ガラス張りで囲まれた建物の中に吸い込まれるように入っていってしまうわけです。展覧会に興味があれば、さらに入場券を買って中に入ればよいし、入場券を買わなくても、例えば、わずかにしか水が張っていないのに深いプールのように見える《スイミング・プール》などの代表的展示を見ることができるわけで、十分楽しめるのです。つまり、この美術館の成功要因はその建築の構造にあるのです。

 この建物を設計したのは妹島和世氏です。氏はルーブル美術館のランス分館の設計を依頼されている方で、今をときめく建築家です。文化施設で人を引き寄せるには、コンテンツのみならず、器である建造物に力を入れることが必要不可欠なのです。仮に、この金沢21世紀美術館と同じコンテンツをどこか既存の美術館で展示したとしても、決してこれだけの人を集めることはできないでしょう。

 だから、文部科学省国立メディア芸術総合センター(仮称)に関する民主党の議論は根本的に間違っているのです。民主党東京国立近代美術館フィルムセンター相模原分館に同じ機能を持たせようと言っていますが、単にアニメやマンガの保管という機能だけなら果たすことができたとしても、そんなところに海外からも人を呼び寄せるような魅力を持たせることは不可能です。そもそものできあがりのイメージが全く違っているわけです。

アニメの殿堂」、既存美術館に機能 文科副大臣が見解2009年9月24日

 川端達夫文部科学相が新規の建設中止を表明した「国立メディア芸術総合センター」(アニメの殿堂)について、鈴木寛文科副大臣は24日の会見で、東京国立近代美術館フィルムセンター相模原分館(神奈川県相模原市)が、芸術総合センターが想定したアニメのセル画保存などの機能を持つ施設になりうるとの認識を示した。
 鈴木副大臣は会見で、フィルムセンターを拡張し、セル画を保存する可能性について、「否定するものではない。今もアニメ映画の保存もしている」と述べた。川端文科相や鈴木副大臣らは25日、現地を視察する。
 また、文化庁が芸術総合センター新規建設中止の代替案として、メディア芸術関連イベント開催などのソフト事業を提示したことは、「きちっと大臣指示に沿った形の提案、議論をしようという姿勢になった」と評価した。(大室一也)

asahi.com(朝日新聞社):「アニメの殿堂」、既存美術館に機能 文科副大臣が見解 - マンガ+ - 映画・音楽・芸能
 民主党はこの金沢市を訪れて、文化政策とは何たるかをよく学ぶべきでしょう。