金沢JAZZ STREETの最終日9/22は、夕方、出演者ほぼ総出のオールスター・スペシャル・コンサートが開催されました。
これまでホールに出演した数々のメンバーが代わる代わる演奏していったのですが、やはり一番の盛り上がりはエリック・アレキサンダー・カルテットでした。彼らは、聴衆の心を掴むすべを実に良く心得ています。スピード感溢れる曲からバラードまでを織り交ぜながら淡々と演奏を続けるスタイルは、見ていて本当に気持ちの良いものです。
それから日本人のミュージシャンで一際輝いていたのは、アキコ・グレースです。ステージの最後に出演者が入れ替わりジャムセッションに参加する曲があったのですが、アキコ・グレースがピアノに座り演奏を始めるなり、ステージの中心はあっという間にアキコ・グレースへと移っていきます。即興であるにもかかわらず、実にスピード感溢れるタッチで曲にピッタリとあったメロディーを展開するテクニックには心底圧倒されました。日本人の若手女性ピアニストの三本指には間違いなく入る実力です。
今回のフェスティバルを通じて最も素晴らしかったのは、エリック・アレキサンダー・カルテットとアキコ・グレースの2組でした。
こうして充実した金沢でのジャズ・ライフが無事終了したわけですが、今回が初回とは思えぬほどの充実したジャズ・フェスティバルでした。大物アーチストからアマチュアの学生バンドまで、幅広い出演者が勢揃いするとともに、老若男女を問わずジャズを愛する幅広い世代が集結したという意味では、他に類例を見ないフェスティバルでした。
金沢という街はジャズ・フェスティバルを開催するには実に恵まれた都市だと思います。まず、市街地が実にコンパクトにできており、香林坊や片町の近辺を中心とする複数の会場を徒歩で渡り歩くことができるという点が非常に大きいメリットです。しかも、各会場もバラエティ豊かで、ショッピングセンターの前の広場から、ポケット・パーク、さらには神社の境内など、市内のちょっとした広場をうまく活用した会場設定でした。尾山神社の境内での夕暮れ時のコンサートは、古今東西の文化が融合した神秘的・幻想的な光景でした。
また、金沢市民の<文化度>の高さも、フェスティバルの成功に大きく貢献しているように見受けられます。ホールでのライブはいずれもほぼ満員で、70歳台のご老人から小さな子どもたちまで、実に幅広い世代が集結していました。あちこちで繰り広げられている街中のライブにも必ず人だかりができていて、ジャズや文化に対する関心の高さが感じられました。人であふれかえっている東京ですら、街角やホールのジャズライブにこれだけコンスタントに関心が向けられることはありません。金沢はもともと前田利家の時代から文化政策で知られた街ですが、そんな戦国時代からの風土がいまだに根付いているように感じられます。そして、九谷焼などの伝統工芸と比較的新しい文化であるジャズが相乗効果となって文化全体の底上げにつながっていけば、正にクリエイティブ・シティの良き事例として世界に誇れる都市になり得るのではないかと思います。
来年以降の課題としては、もっと生きのいいジャズ・ミュージシャンたちを諸外国から呼んでくるべきだと思います。ビバップの時代を生き抜いた伝説的な人物を呼んでくることはもちろんあってもよいのですが、今の世界のジャズ・シーンで特に生きがいいのは、イタリア・ジャズです。来年はファブリッツィオ・ボッソやジャズライフ・セクステットなどのバンドを呼んでくることも考えてよいのではないかと思います。
また、金沢をアジアのジャズの中心地に仕立て上げる工夫があってもよいのではないかと思います。その意味で、中国、韓国、ベトナム、フィリピンなどから生きのいいジャズ・ミュージシャンたちを呼んでくることは大いに意義があることだと思います。かつてベトナムのホーチミンに行った際にライブを鑑賞したTran Manh Tuanなどを連れてきたも面白いのではないかと思います。
ベン・ライリー率いるモンク・レガシー・セクステットもそれはそれで悪くないのですが、「なぜ、モンクに限定して演奏しなければならないのか??」という疑問が常につきまとってしまいます。難解なモンクの曲をホーンを使って分かりやすく表現していたのは高く評価できると思うものの、モンクのファンだけでなく幅広いジャズ・ファンを対象とするフェスティバルに向いているのだろうかと考えると、もう少し選択の余地があったのではないかと思います。現に、エリック・アレキサンダー・カルテットの盛り上がりに比べると、モンク・レガシー・セクステットの盛り上がりはだいぶ劣って見えてしまいました。この辺の人選も見直しが必要であるように思えます。
ちなみに、エリック・アレキサンダー・カルテットの最新アルバムは実によくできています。
- アーティスト: Eric Alexander,Harold Mabern,Nat Reeves,Joe Farnsworth
- 出版社/メーカー: High Note
- 発売日: 2009/09/18
- メディア: CD
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