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映画、書評、ジャズなど

スタッズ・ターケル「ジャズの巨人たち」

ジャズの巨人たち

ジャズの巨人たち

 ジャズの歴史上の伝説的な人物たちを取り上げ、物語的な軽いタッチで描いた本です。

 原書はもともと1957年に刊行されているようですが、今日読んでも全く色あせることなく、ジャズ全盛期のミュージシャンたちの悲喜こもごもが生き生きと伝わってきます。

 ジャズ創成期からモダン・ジャズの時代にかけて、ジャズの歴史に多大な影響を与えた人物たち―ジョー・オリヴァー、ルイ・アームストロング、ベッシー・スミス、ビックス・バイダーベックファッツ・ウォーラーデューク・エリントンベニー・グッドマンカウント・ベイシービリー・ホリデイウディ・ハーマンディジー・ガレスピーチャーリー・パーカージョン・コルトレーン―の生涯の特徴がごくコンパクトにまとめられています。

 これらの偉人たちは、それぞれ全く違った個性を持っていますが、いろいろな形で互いに接点を持っていることが、本書からは伝わってきます。

 ジョー・オリヴァーはルイ・アームストロングの憧れの存在で、シカゴにルイを呼び寄せて自らのバンドに参加させるのですが、その後圧倒的なスターにのし上がっていったルイに対して、ジョーは歯がぼろぼろになった晩年は演奏すらできず、寂しく生涯を閉じることになります。ビックス・バーダーベックはブルースの女王ベッシー・スミスの歌に感動し、ポケットの有り金をベッシーに差し出します。ビックスは停泊中の船からルイ・アームストロングの演奏を聴いていたかもしれない。小象のような体躯のファッツ・ウォーラールイ・アームストロングと愉快に共演したり、ベッシー・スミスの伴奏者を務めます。デューク・エリントンファッツ・ウォーラーからニューヨークに来ることを誘われる。半ズボンをはいて船のバンドで仕事をしていたベニー・グッドマンビックス・バイダーベックから子ども扱いされる。カンザス・シティで活動していたカウント・ベイシーファッツ・ウォーラーにオルガンを付きっきりで学んだ。ビリー・ホリデイはベニーグッドマン楽団とレコードを吹き込み、そしてカウント・ベイシーのバンドの歌手を務めた。ウディ・ハーマンカウント・ベイシーのバンドとステージを分け合い、ベイシーから賞賛される。ディジー・ガレスピーチャーリー・パーカーと共に活動した。コルトレーンは、チャーリー・パーカーと一時親密に共演したマイルス・デイヴィスの元で実力を付けた・・・。

 という具合に、それぞれのミュージシャンが様々な形でつながっている、それがこの時期のジャズの世界の魅力と言えるでしょう。ジャズという音楽の向こう側に、悲喜こもごもの人間模様が透けて見えるのです。

 本書では、ファッツ・ウォーラーを取り上げているところは、なかなかセンスが良いと思われます。ジターバッグ・ワルツ Jitterbug Waltzなどで知られるファッツ・ウォーラーはもちろん、多くのジャズファンに知られている存在であるには違いありませんが、他の人物たちと並んだときに必ずしもそこまでの存在感を持っているミュージシャンとは言えません。しかし、先に触れたように、この時期のミュージシャンたちをつなぐ「結節点」としては、重要な役割を果たしていることが分かります。

 そういう意味では、フレッチャー・ヘンダーソンもこの時期のミュージシャンたちをつなぐ上で重要な役割を果たしており、本書で取り上げられても良かったのではないかと思います。フレッチャー・ヘンダーソンはルイ・アームストロングが彼のバンドに招かれたり、あるいはベニーグッドマンの編曲を申し出たりしています(映画『ベニーグッドマン物語』でもフレッチャー・ヘンダーソンが登場します。)。さらに、カウント・ベイシーフレッチャー・ヘンダーソン楽団の後釜に入った際、フレッチャー・ヘンダーソンはベイシーの音楽を高く買い、自由に譜面を使わせています。ベイシーは「あの助けがなかったら、失敗していた」と述べたそうです。今日、フレッチャー・ヘンダーソンの演奏を熱烈に支持しているという人がいるという話はあまり聴いたことがありませんが、今日のジャズがあるのもフレッチャー・ヘンダーソンに負うところは大きいといっても過言ではないでしょう。

 それからミュージシャンではありませんが、やはりこの時代のジャズ界を語る上で欠かせないのは、プロデューサーのジョン・ハモンドでしょう。ベニーグッドマンはジョン・ハモンドの勧めで自らの楽団を結成しましたし、また、シカゴのラジオでカウント・ベイシーの演奏を聴いたジョン・ハモンドが感動を抑えられず、カンザス・シティまで自動車を飛ばしてベイシーに会ったというのは有名な話です。また、ビリー・ホリデイに対して、ベニーグッドマン楽団と吹き込むことを提案したのもジョン・ハモンドだそうです。

 本書を読んで実感したのは、ジャズの歴史というのは、ミュージシャンたちが過去のジャズのスタイルを継承するとともに、反発しながら、前に進んできたということです。

「継承」と「反発」

 この2つの要素がいろいろなバランスで作用することによって、ジャズの多様性が生み出されてきたと言えるでしょう。

 ジャズと一言で言っても、その音楽スタイルは非常にまちまちです。スウィングとビバップが同じ「ジャズ」というカテゴリーで括られるのは、一見違和感を感じます。しかし、ジャズの歴史を見てみると、スウィング時代のミュージシャンたちが後世のミュージシャンたちに「継承」や「反発」といった形で影響を与えた結果、ビバップが生まれてきたことが分かります。ビバップが歴史から断絶した中で突如として生まれてきたわけではなく、過去との連続性の中で生まれてきているわけで、だからこそ、同じ「ジャズ」というカテゴリーで括られるわけです。

「ジャズはひとつづきの長い鎖だ。これら十三人の人生と音楽はそのなかでそれぞれに大きな輪をつくっている。」

 この言葉に、本書のエッセンスが凝縮されています。