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「アニメの殿堂」 文化政策のあり方を問え(8月10日付・読売社説)

 少し前になりますが、8月10日の読売新聞の社説にて、国立メディア芸術総合センターについて取り上げられていました。
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20090809-OYT1T00987.htm

 本社説では、メディア芸術総合センターの是非についてはっきりと明言するものではありませんが、これまで各種メディアでは、民主党の「アニメの伝道」批判に乗じてこれをこぞって批判する傾向があった中で、

民主党は「国営マンガ喫茶」と揶揄(やゆ)しているが、これでは誤解が広がるばかりだろう。
 国際的評価も高いこの分野の作品の製作や発信を、国が積極的に支援することは大切なことだ。とりわけ、散逸する作品の収集は大きな課題となっている。
 要は、税金の無駄遣いにならないよう、目的にきちんと見合った施設を造ることだ。」

と述べているなど、比較的冷静かつ中立的に論じているところに好感が持てます。

 この件については、このブログでも既に一度取り上げて論じたことがありますが、私は海外から日本のアニメやマンガを目当てにやって来る観光客を惹き付けるためには、ある程度立派な建物が必要であると考えています。

 こうした見方は、世界的に見ても、ある程度常識になりつつあると言ってもよいでしょう。

 その最も典型的な事例として挙げられるのは、スペイン・ビルバオのグッゲンハイム美術でしょう。

ビルバオ・グッゲンハイム美術館 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%83%AB%E3%83%90%E3%82%AA%E3%83%BB%E3%82%B0%E3%83%83%E3%82%B2%E3%83%B3%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%A0%E7%BE%8E%E8%A1%93%E9%A4%A8

 この美術館は1998年にオープンしたもので、この異様な形状の建物は、世界的な建築家フランク・ゲーリーによって設計されたものです。007の「ワールド・ノット・イナフ」の撮影の舞台にも使われています。

 もともと鉄鋼業の衰退した町に過ぎなかったビルバオが世界的に一躍知られるようになったのは、何と言ってもこの美術館の外観によるところが大きく、この美術館には年間100万人の来客があるそうです。

 だから、こういう文化政策においては、ある程度資金をかけることが必要であり、逆に資金をけちった結果としてみすぼらしく全く魅力のない建物を作ったとしても、中途半端な結果に終わってしまうだけです。今でも世界中で多くの人々を魅了し惹き付けるような文化遺産は、民主主義が発展する前の王制や独裁制の下で、ふんだんな資金がつぎ込まれて作られたものばかりです。お金をかけるからこそ魅力的な物ができるという側面があることは否定することは困難でしょう。

 かといって、いくら外観が豪華であっても、中身があまりにも伴わなければ、それはそれで魅力のないものに終わってしまうわけですから、外観に加えて中身が重要であることは言うまでもありません。この点については、文化庁にも真摯な議論を期待したいところです。

 それにしても、民主党の「アニメの殿堂」や「国営マンガ喫茶」というレッテル貼りはあまりに貧弱な発想です。無駄遣いということであれば、他にもっと指摘すべき公共事業がいっぱいあるわけであり、それをさておきこのメディア芸術総合センターに対して真っ先に批判の矛先を向け、政争の具とするのはいかがなものかと思わざるを得ません。