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映画、書評、ジャズなど

スティーグ・ラーソン「ミレニアム2 火と戯れる女」

ミレニアム2 上 火と戯れる女

ミレニアム2 上 火と戯れる女

ミレニアム2 下 火と戯れる女

ミレニアム2 下 火と戯れる女

 ミレニアムシリーズの第2弾です。前作では、雑誌ミレニアムの発行責任者ミカエルが財閥ヴァンゲル・グループに秘められた謎を解き明かしていったのですが、その解決の中で重要な役割を果たしたリスベット・サランデルが今回の主役です。前作においてリスベットのキャラクターの強烈さは極めて印象的です。人付き合いを好まず、タトゥーを全身にまとっているが、ずば抜けた才能を持ち、どんなコンピューターにもたやすく侵入することができ、映像記憶力に優れている、何ともなぞめいたキャラクターなのですが、本作ではこのサランデルこそが主役となり、彼女の出生の秘密が明らかになっていきます。

 以下、白色文字にしておきます。
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 前作でミカエルの命を救ったサランデルは、ミカエルに密かに恋をしていたが、それが叶わないと悟ると、ミカエルの前から姿を消していた。ミカエルはサランデルと連絡を取ろうとしても、一向に連絡は取れない。

 他方、サランデルの後見人でサランデルに性的虐待を繰り返していた弁護士ビュルマンは、虐待の場面を録画したDVDをサランデルに握られていたため、サランデルの言いなりになっていた。しかも、下腹部には

「私はサディストの豚、恥知らず、レイプ犯です」

という屈辱的な文字をサランデルによって刻み込まれており、サランデルへの仕返しに執念を燃やしていた。

 雑誌ミレニアムが一躍世間の注目を浴びる中、ミカエルは新たなネタを仕込んでいた。それは、少女の人身売買に係るスクープだった。このネタをミレニアムに持ち込んだのはフリーのジャーナリストのダグ・スヴェンソンであり、その恋人のミア・ベイルマンも人身売買についての博士論文の完成が間近に迫っていた。

 スヴェンソンはこの調査の中で「ザラ」という人物に突き当たった。この人物が人身売買の鍵を握っているようなのだが、「ザラ」の話を聞こうとすると、皆一様に口を閉ざしてしまう。

 ある日、ミカエルはこの出版の関係でスヴェンソンに会うために、スヴェンソンの家に向かったのだが、そこで目にしたのは、殺害されたスヴェンソンとベイルマンだった。また、時を同じくして、弁護士のビュルマンも殺害される。スヴェンソンの家からはリスベットの指紋が検出されたことから、この3人の殺害はリスベットである可能性が高まる。確かにリスベットは2人が殺害される直前に2人の元を訪れていたのだった。新聞は一斉にリスベットを取り上げ、犯人扱いする。彼女がかつて無能力者とされていたこともあり、彼女は極めて危険な人物とみなされ、捜査当局もリスベットの行方を必死に追う。

 ところがリスベットの行方はなかなか知れない。リスベットの正義感をよく知るミカエルは、リスベットが犯人であるとは到底信じられない。しかもリスベットはミカエルの命を土壇場で救ってくれた恩人だ。ミカエルは当初から、犯人は人身売買に関連している人物であるとの見方を持っていた。ミカエルが何とかリスベットと連絡を取ろうとしていると、リスベットはミカエルのパソコンに侵入し、伝言ファイルを残すようになる。

 リスベットの過去に関する情報の中で唯一入手できないものがあった。その「最悪な出来事」とは一体何なのか?「ザラ」とは一体誰なのか?サランデルを狙っている金髪の大男とは誰なのか?

 ミカエルは少女を買春をしていた公安警察官やリスベットの前の後見人パルムグレンらに当たって話を聞き、その衝撃の真相が解明されていく。

 ザラとはソ連の秘密組織のメンバーで、かつて亡命してきた人物であった。ソ連の重要な情報をもたらすザラをスウェーデン公安警察はかくまい、ザラの存在を知る者も公安警察のごく一部だった。ビョルクやビュルマン、そしてサランデルを無能力者と断定した精神科医は皆、かつての公安警察関係者としてつながっていたのだった。

 しかも、パルムグレンによれば、ザラはサランデルの実の父親だった。ザラはサランデルの母親に対してたびたび暴力をふるい、母親に暴力をふるうザラを憎んでいた12歳のサランデルは、ザラの車に火炎瓶を投げ込み、ザラに重傷を負わせ、それが原因でサランデルは精神病院送りになったのだった。それが「最悪な出来事」の真相だった。さらにサランデルの命を狙う金髪の大男はサランデルの異母兄弟だったのだ。

 サランデルはザラと金髪の大男と決着をつけるため、2人の元へ向かう。壮絶な戦いの末2人によってたたきのめされ、サランデルは土に埋められた。2人はサランデルは死んだものと思っていたが、最後の力を振り絞って土の中からはい出してきたサランデルは、ザラと金髪の大男に復讐する。力尽きて倒れているサランデルをミカエルが発見するところで物語は終わる・・・。


 本作も前作にも劣らないスリリングな展開が繰り広げられます。「ザラ」と「最悪な出来事」という2つのキーワードが物語の早くから登場し、読者を強力に物語に引き込みます。

 それにしても、この物語の登場人物の設定はよくできています。まずは何と言ってもサランデルです。ずば抜けた頭脳を持ち、フェルマーの定理に思いを巡らしつつ、ガールフレンドのミリアム・ウーと過激な性戯を楽しんでいる。ミカエルに思いを寄せるも叶わないことが分かると連絡を絶ってしまう極端にシャイな面も持ち合わせる。何とも不思議なキャラクターです。ミカエルも、どん欲で一途なジャーナリストでありながら、女性関係は奔放で、同じミレニアムの同僚のエリカとしばしばベッドを共にする仲です。しかも、エリカの夫公認の仲です。

 また、無駄のないストーリーは本当に素晴らしい出来です。事前に丹念に構成を詰めていたのでしょう。複雑なミステリーにありがちな設定ミスは全く見あたりません。

 それと本書の素晴らしさはやはり翻訳のうまさにあるのではないかという気がします。もちろん原文と照らし合わせたわけではありませんが、スラスラと読める日本語であることは、ミステリー小説にとって成否を分ける決定的なポイントです。本書は途中だらだらする部分が微塵もなく、最初から最後まで一気に読み通してしまう神通力を備えています。

 サランデルは助かるのか?エリカが抜けようとしているミレニアムの帰趨はどうなってしまうのか?
 第三部がいよいよ楽しみになってきました。