- 出版社/メーカー: 東北新社
- 発売日: 2006/10/27
- メディア: DVD
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アメリカからヴェニスに旅行に来たジェイン・ハドソン(キャサリン・ヘップバーン)は、ヴェニスでの生活に次第に孤独感を募らせていく。そんなとき、ある骨董品屋で、レナート(ロッサノ・ブラッツィ)に出くわす。ジェインはハドソンとサン・マルコ広場のカフェで出くわしており、それは運命的な再会だった。
ジェインはその後、再びレナートに会いに骨董品屋に足を運んだが、会うことはできなかった。しかし、レナートの方がジェインの滞在しているホテルにやってきて食事に誘う。
ジェインはレナートとともに至福の時間を過ごす。花を売りに来た売り子から、ジェインはガーディニア(くちなし)の花を選んで買ってもらう。クチナシの花は、ジェインがかつて舞踏会に行ったときにつけた花だったのだ。
ところが、レナートには実は家族がいることが発覚する。ジェインはレナートに問いただすと、レナートは妻と別居しているのだと打ち明けた。
その後ジェインは、ヴェニスを去ることを心に決める。このままでは別れられなくなる、引き際が肝心だと考えた末の決断だった。ジェインは列車に乗って窓からプラットフォームを見ていた。そこに、レナートが小箱を持って駆けつけた。しかし、列車は発車してしまっており、レナートは列車と平行してホームを走るが、結局追いつけなかった。レナートが落とした小箱には、ガーディニアの花が入っていた・・・。
この映画の最大の魅力は、ヴェニスの街の美しさを存分に堪能できることです。とにかく、ヴェニスをきれいに撮っています。ヴェニスの売りである運河とそこを走り回る小舟、サン・マルコ広場のカフェと鳩、統一された赤い屋根の家々、どの場面をとっても、ヴェニスの街の魅力的な断片が切り出されます。
ちなみに、淀川長治氏は、
「ガーディニアの花は愛の訣別の暗示。」
と書いておられます。
つまり、ジェインは、橋の欄干から買ってもらったガーディニアの花を落としてしまい、レナートはそれを拾おうと試みるのですが、ほんとならレナートは運河に飛び込んだらいいのに、そうはしなかった、これがこの映画の愛の訣別の暗示なのだ、というわけです。
う〜ん、そうかもしれない。確かに、これが若者同士の情熱的な恋だったら、この場面で男は間違いなく飛び込むシナリオになっているでしょう。しかし、この作品中の2人は、もはや中年の域にさしかかっており、互いにどこかセーブしながら恋を楽しんでいる。それが、中年の恋ならではの哀しさを象徴しているということなのでしょう。
淀川氏の
「デヴィッド・リーンは、中年の恋の哀しさを花を使って見事にみせました。」
という指摘は、全くその通りだと思います。
それにしても、デイヴィッド・リーン監督は、先日鑑賞してきた『アラビアのロレンス』のような壮大な映画から、この『旅情』のような一夏の恋愛ものまで、実に幅広いスタイルの映画を、しかもどれも素敵に描いており、本当にすごい監督です。