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バレンボイム中東公演中止

文化 政治

 大変残念なニュースです。
http://sankei.jp.msn.com/world/mideast/090107/mds0901071041004-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/world/mideast/090107/mds0901071041004-n1.htm

 世界文化賞受賞者のバレンボイム氏、ガザ情勢で中東での公演中止
世界的指揮者でベルリン国立歌劇場の音楽監督を務めるユダヤ人のダニエル・バレンボイム氏(66)は6日、今月10日と12日に中東のカタールとエジプトでそれぞれ予定されていたイスラエル人とパレスチナ人による混成楽団の結成10周年公演が、パレスチナ自治区ガザでの戦闘を理由に中止されたことを明らかにした。
 主催者側から、治安上の懸念を理由に中止の通告があったという。
 ベルリンからの報道によると、バレンボイム氏はガザ情勢について「悲しく、ぞっとしている」とし「軍事的解決が可能との近視眼的な思考に絶望している」と平和的解決を訴えた。
 イスラエル人とパレスチナ人の融和を図る活動を続ける同氏は、今月1日のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤーコンサートを指揮した際も、舞台上から中東和平を呼び掛けた。(共同)

 バレンボイム氏は、正月1日にウィーンで開催されたウィーン・フィル「ニューイヤーコンサート」で指揮をとりました。NHK衛星放送で放映されていたので、ご覧になられた方も多いかもしれませんが、バレンボイムは曲の合間に壇上から、

「09年が世界に平和、中東に人類の正義が訪れる年になることを望む」

と訴えました。その絶妙なタイミングや嫌みのないメッセージは、静かな中にも力強さを感じるものでした。

 現在、中東のガザでは再び悲惨な状況が生じています。国連学校が砲撃され、多くの民間人が犠牲となっていると報じられており、一刻も早くこの状況を収束させなければならないことは論を待ちません。

 本来、政治がこういう時こそ、文化交流が真の威力を発揮するはずです。だからこそ、イスラエル人とパレスチナ人との混成楽団による演奏会を決行すべきだったのではないでしょうか。

 バレンボイムは、著書『バレンボイム音楽論 対話と共存のフーガ』の中で次のように述べています。

「文化は人びとの出会いをうながし、人びとののあいだの距離を縮め、たがいの理解をはぐくむ。エドワード・サイードと私がウェスト=イースタン・ディヴァイン・プロジェクトを立ちあげた理由はここにある。」

バレンボイム音楽論──対話と共存のフーガ

バレンボイム音楽論──対話と共存のフーガ

 バレンボイムのこうした構想は、ゲーテの強い影響を受けているようです。イスラムに強い関心を寄せ、コーランに強い興味を覚えたゲーテは60歳でアラビア語を学び始めたとのこと。このゲーテの異文化に対し関心を示す姿勢こそがバレンボイムの構想を支えているのです。

 もちろん、バレンボイムは、こうした取り組みが直ちに中東に和平をもたらすと考えるほど楽天的ではありません。

「むろん、ウェスト=イースタン・ディヴァイン・オーケストラが平和をもたらせるわけではない。けれども、たがいを理解するための条件―これがなければ平和について話しあうことさえできない―を生みだすことはできる。このオーケストラには一人ひとりの好奇心を呼びさまして他人の話に耳をかたむけさせる力が、できれば聞きたくないことを聞くために必要な勇気を起こさせる力がある。そして、受け入れがたいことにも耳をかたむけてみれば、少なくとも、相手の意見ももっともだと思えるかもしれない。」

 こういう地道な思想に基づく地道な取組は、一見すると和平への迂遠な道筋にも思えるのですが、実は、最も最短の道なのかもしれません。

 新年早々、中東は本当に不幸な状況が生じてしまっていますが、こういうときこそ文化交流の力に大いに期待したいところです。バレンボイム氏の活動には本当に頭が下がります。