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「サイコ」★★★★☆

 手に汗握るカメラワークはさすが巨匠ヒッチコック作品です。

 小さな不動産会社に勤務する女性事務員のマリオン・クレーン(ジャネット・リー)は、遠く離れた町に住むサム・ルーミスとの間で時たま逢瀬を重ねていたが、サムは別れた前妻への慰謝料支払いなどもあり、なかなか結婚にはこぎ着けられず、マリオンは決して幸せとは言えない状況に置かれていた。

 ある日マリオンは、現金で不動産を購入する顧客からその現金4万ドルを預ったまた逃避行を図る。サムの住む町へと車を走らせ、途中、旧道沿いにひっそりと営業しているモーテルに立ち寄る。このモーテルを営むノーマン(アンソニー・パーキンス)は、母親と2人でひっそりと暮らしているのだといい、夜になるとノーマンと母親が口論する声が響き渡った。マリオンはこのモーテルの1室で浴室でシャワーを浴びていたところ、何者かによって刃物で滅多差しにされて殺されてしまう。マリオンの死体を見つけたノーマンは、近くの沼地に車ともども沈めてしまう。

 マリオンの行方が分からなくなったことを知ったマリオンの妹ライラと、不動産会社から依頼を受けた私立探偵アポガストは、マリオンがサムの元へと向かったのではないかと考えサムを訪ねるが、やがて、ノーマンのモーテルにマリオンが立ち寄ったことをつかむ。アポガストは1人ノーマンを訪ね、その母親に会いに行ったところ、何者かに殺された。

 妹のライラは、町の保安官を頼って姉の消息をつかもうとするが、そこで、ノーマンの母親はずっと前に死んでいたことを知らされる。サムと2人でノーマンのモーテルに滞在し、真相を探ろうとする。サムがノーマンと話にふけっている間に、ライラはノーマンの母親に会おうと試みるが、家の地下室で、母親のミイラを発見する。そこに女がライラを殺しに来るが、間一髪サムが駆けつけた。その女は実は女装したノーマンだった・・・。


 ラストで、この不可解な展開の真相が明かされるます。実はノーマンは、昔、母親とその愛人を殺していた。母親は自殺として処理されていたのだったが、ノーマンは母親を墓から掘り起こして、その死体とともにずっと暮らしてきた。そして、ノーマンの中にはノーマン自身のほかに、母親の人格が乗り移っていたのだった。
 ノーマンの中では、ノーマン自身の人格と母親の人格が葛藤していた。そして、今回の事件をきっかけに、ノーマンの中で、母親の人格がノーマン自身の人格に打ち勝ち、今では母親の人格のみが支配することになっていた。

 何と、意外かつ衝撃的なラストでしょうか!

 この映画でも、とにかくヒッチコックのカメラワークは冴え渡っています。マリオンがシャワーを浴びているとき、カーテンの後ろに黒い影がスーッと現れて刃物を振り上げるシーン、そして、ライラがノーマンの母親の死体を発見したシーンなどは絶品で、カメラワークによって映画のスリルを効果的に高めています。特に、シャワーのシーンでは、マリオンの体に刃物が突き刺さるシーンがないにも関わらず、すさまじい恐怖感を演出しています。

 ヒッチコックの映画を見て思うのは、彼の映画は実はセリフがなくてもストーリーが伝わってくるのではないかという点です。つまり、映像だけでも十分ストーリーが追えるほど、カメラワークに巧妙な工夫が凝らされているという気がするのです。それだけ、カメラワークを重視していたということが言えるでしょう。

 そして、この作品のもう1つの特徴は、やはり「異常心理」です。母親の人格が乗り移り、自分が女性に恋をすると、母親の人格が自分の体の中で嫉妬する、、、もの凄い設定です。

 ヒッチコックのサスペンスの代表作というにふさわしい作品です。