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リレット@Body&Soul

 また、ジャズの話題なのですが、最近足を運ぶことが多くなったBody&Soulでのリレットのライブです。
 女性ヴォーカリストのリレットさんは、普段は鹿児島のライブハウスを中心として活動されている方で、月に一度くらいはBody&Soulで演奏されているようですが、今回初めてその歌声を拝聴いたしました。

 そして、今日のライブの目的は何と言ってもピアノの秋田慎治です。彼の演奏は以前六本木のアルフィーでの神谷えりさんとのコラボを聴いたことがありましたが、そのセンス溢れる演奏に惚れ込んでしまいました。
http://d.hatena.ne.jp/loisil-space/20080802/p1

 演奏は、スタンダード・ナンバーが中心で、ラテン系の「Besame Mucho」、「The Very Thought OfYou」などおなじみの名曲が立て続けに演奏されました。

 リレットの歌声は声量があって、クールな感じが実に素晴らしかったです。抑揚を効かせたバラードの歌声も素晴らしかったのですが、個人的にはアップテンポのナンバーがバンド全体としてはばっちり合っていたような気がしました。そして、合間のMCでも、「橋」「島」「虹」といた曲名にちなんだ話をささやくような声でクールに語るリレットは、Body&Soulの雰囲気にぴったりとはまっていました。

 最もよかった曲は、アンコールで演奏した「On A Slow Boat To China」でしょう。リレットのヴォーカルの素晴らしさが思う存分発揮されていたナンバーでした。

 この歌は、村上春樹の初期の頃である1980年の短編作品「中国行きのスロウ・ボート」のタイトルにもなっているナンバーです。この短編は、主人公がこれまでに出会った中国人の回想から成っている作品です。アルバイト先で一緒だった中国人女性をデートしたものの、門限を目指して帰ろうとする彼女を、どういうわけか、反対方向の山手線に乗せてしまう。彼女は彼がわざとそうしたのだと思う。必死に言い訳をする彼に対して、涙を流していた彼女は微笑んでこう言う。

「いいのよ。そもそもここは私の居るべき場所じゃないのよ。」

 彼は彼女に電話すると約束したものの、ここでもう一つ致命的な過ちを犯してしまう。それは、彼女の電話番号を控えた紙マッチを煙草の空箱と一緒に捨ててしまったことだった。それ以来、彼は彼女と一度も会っていない・・・。

 この短編は、中国人に関わるそんなとりとめのないエピソードが詰まった作品で、村上ワールドの片鱗が既に垣間見られます。

 さて、ジャズ作品としての「On A Slow Boat To China」は最近は演奏されることが比較的少なくなった曲のようですが、それがアンコールの曲として登場し、しかも今回のライブの最も最高の演奏だったので、とても幸せな気分に浸れました。

 そして、秋田慎治のピアノは相変わらず天才的な演奏を披露してくれました。とにかく楽しそうに余裕を持って演奏するミュージシャンで、見ている側を楽しい気分にさせてくれます。

 リレットと秋田慎治の組み合わせが今後あれば、是非また聴いてみたいと思いました。