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「崖の上のポニョ」★★☆

http://www.ghibli.jp/ponyo/
 今年の日本映画界の最大の目玉であり、これまでの宮崎作品の中でも早いペースで観客動員数を刻んでいる作品です。映画全体を包む雰囲気や音楽、そして映像の鮮やかさなどの面においては宮崎作品らしさが十分に出ていたものの、正直、ストーリー展開、登場人物の意味づけなど、ほとんど大人にも理解不能です。こういう映画がジブリ作品というだけで大ヒットしてしまうのですから、ある意味でジブリ・ブランドの物凄い力を感じざるを得ません。

 話の内容は次のような感じです。

 海辺の高台で暮らす幼い少年宗介がある日海岸で、さかなの子供であるポニョを見つける。ポニョは海底で暮らす元人間である父親の元にいたのだが、クラゲに乗って眠っているうちに海面までたどり着いてしまったのだった。

 ポニョの父親は宗介の下からポニョをいったんは取り返したが、ポニョは再び宗介の下にやってきて、宗介と二人で仲良く暮らす。

 宗介の父親は漁師で、家族と離ればなれの日々が続いていた。宗介の母親は近くの老人ホームで働いていた。ある日、海が大荒れになり、宗介の母親は老人ホームの様子を見に行ったまま、戻ってこない。心配した宗介とポニョは2人で宗介の母親を捜しに向かう。実は宗介の母親たちはポニョの母親と会っており、宗介とポニョが無事たどり着くのを待っていたのだった。

 宗介とポニョは無事母親たちの下へたどり着く。車いすで生活していた老人ホームのおばあさんたちもピンピンと歩けるようになっていた・・・。



 この作品を通して宮崎監督がおそらく伝えたかったであろうことは、何となく伝わってきます。生物というのはもともと海で育まれてきたものであるのに、人間たちは海を汚染してしまっている。しかし、人間と海がもはや折り合う余地がないわけではない。「もののけ姫」で人間と森を対置させた宮崎監督は、この作品では人間と海を対置させ、それらの共生の必要性を伝えたかったのでしょう。

 しかし、それならば、「もののけ姫」のように、もう少しストレートな形で人間と海の関係を表現してもよかったのではないかと思うのです。海を汚染する人間たち、そんな人間に反乱を起こす海の神々。そんな両者を結びつける宗介とポニョ、、、そんなストーリーだったら分かりやすかったのではないかと思うわけです。

 ただ、こうしたテーマをあまりストレートに表現すれば、その分ファンタジー的な要素が薄れ、深刻な作品となってしまうため、この作品では子供でも楽しめるファンタジー的な要素を盛り込むとともに、その代償としてメッセージ性を弱める途を探ったのではないか、そんな感じがします。

 「千と千尋の神隠し」などファンタジー的な作品で大成功を収めた宮崎監督としては、やはりファンタジーの道を捨てられなかったのでしょう。ですから、その分ストーリー性が薄まり、大人からすれば、物足りない作品となってしまった事情は、ある程度理解できます。しかし、それにしても、登場するキャラクターの意味合いがはっきりしていないために、雰囲気だけを楽しむ作品になってしまった感があります。やや厳しい言葉を使えば「支離滅裂」です。

 というわけで、本作品は興行面などで日本でももう少し厳しい評価を受けてもよいのではないかと個人的には思います。本作品はベネチア映画祭にも出品されていますが、海外でどのように評価されるかが、この作品の(残念ながら)真の評価と言えるのかもしれません。