夏期休暇に久々に美術館に足を運びました。国立西洋美術館で今月末まで開催されているコロー展です。
コローと言えば、光の濃淡を強調した美しい絵を数多く残した写実主義の画家として知られています。その影響は印象派にとどまらず、ピカソやブラックといったキュービズムの画家にも及んでおり、多くの画家がコローの絵のオマージュ作品を製作しています。
コローの絵画の対象は、後期の人物画を除けば、田舎の田園地帯の風景を描いた風景画が多くを閉めています。今回の展覧会でも、都市を描いた絵というのはあまり見受けられなかった印象です。
パリ郊外のフォンテーヌブローや、コローが父親に別荘を買ってもらったヴィル・ダヴレーを描いた絵画が初期の作品に多く見られます。
コローがそうした田園風景を描き続けたのは、当時の田舎への回帰の風潮があったことも大きく影響しているものと思われます。19世紀のヨーロッパの都市は、産業革命の影響もあり、人口が密集して、都市の生活環境もだいぶ悪化していた時期です。喜安朗氏が1982年に書かれた『パリの聖月曜日』という本がありますが、この本では、19世紀のパリが人口急増に対してインフラの整備が追いつかず、人々の生活がひどい状況に陥っていたかが描かれています。
- 作者: 喜安朗
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2008/03/14
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パリに住んでいたコローが田園地帯の自然の風景を描いていたのは、そういう時期だったのです。つまり、パリの都市化が進み、ますます住みづらくなっていく反面、鉄道旅行が安価なものになり、人々が比較的手軽に郊外の田園地帯につかの間の脱出を図ることが可能だった時期です。そんな時期にコローはしばしばパリの喧噪から逃れ、田園地帯で思いに耽っていたのです。
さて、今回の展覧会で何と云っても印象深かったのは、《真珠の女》です。
19世紀のモナリザとも称されるのがよく分かるくらい、そのややうつむき気味の表情は神秘的であり、何とも言えない美しさを醸し出しています。
それから、風景画では《モルトフォンテーヌの想い出》です。
淡い光を放つ湖面を背景に、3人の女性たちが何やら花摘みでもしている感じです。この女性たちは自然の中に同化してしまっているかのように描かれていますが、自然と一体化したいというコローの自然観がよく現れていると言えます。コローの風景画には人物が描かれているのも結構ありますが、それでもそれは人物が主人公として描かれているわけではなく、あくまで主人公は自然の方であり、人物はその中の要素の一つとしてしか見なされていないように見受けられます。そうした自然観が何やら東洋的な感性と共鳴する部分があるのではないかという気がします。
それからコローが亡くなる間際に描かれた《青い服の婦人》です
この女性の表情も何やら意味深です。後年の1900年のパリ万国博覧会に出品され、センセーショナルを巻き起こしたとのことですが、ふくよかな女性の放つオーラに圧倒されてしまう作品です。
必見の展覧会です。