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映画、書評、ジャズなど

「わが谷は緑なりき」★★★★★

わが谷は緑なりき [DVD] FRT-113

わが谷は緑なりき [DVD] FRT-113

 ジョン・フォード監督の代表作の一つです。炭坑の町に暮らす一家が激動の中で揺れ動く様をヒューマニズムのタッチで描いた作品です。

 モーガン一家は、父親と息子たちが炭坑で働き、生計を立てていた。一番下の息子のヒューだけはまだ小さかったので働いていなかった。この炭坑の町の精神的支柱となっていたのは教会であり、そこには若い牧師が神父を務めていた。

 ある時、炭坑労働者の賃金カットが一方的に打ち出される。当時はまだ組合を作ろうといえば社会主義者のレッテルを貼られてしまうような時代であった。モーガン家の父親はデモに反対したことから、デモに積極的な息子たちと仲違いしてしまい、労働者仲間からも中傷されてしまう。この事態を見かねたモーガン家の母親は大勢の労働者たちに説教をしたが、その帰りに、母親とヒューは冷たい河に落ちてしまい、2人は長い間歩けない状態となってしまう。

 そんな失意のヒューの心の支えとなったのが、教会の若い牧師だった。やがてモーガン家の娘アンハードはこの牧師に恋をしていたが、結局、意に反して炭坑主の息子と結婚することとなる。

 成長したヒューはよく勉強し、隣町の学校に通うが、そこでは炭坑町から来た神童と言われいじめに合う。そこでモーガン家の父親はヒューにボクシングを学ばせ、喧嘩に負けないように仕込む。やはてヒューは主席で学校を卒業するものの、自らの意思で炭坑夫になる道を選択する。

 そんななか、ヒューがお世話になった教会の牧師が、アンハードとの不倫関係を噂され、町を出て行かざるを得ない状況となる。ヒューは牧師のために力になれないことに心を痛める。

 そんな状況の中で、モーガン家の父親は炭坑の落盤事故で命を落としてしまう。

 炭坑の町でのモーガン家の幸福はもはや失われてしまったのだった。


 この作品は、大人になったヒューがモーガン家の盛衰を回想しながら進んでいく構成となっています。教会の場面でたびたび賛美歌が流れるのが、音楽的に絶妙なアクセントとなっており、映画の雰囲気作りに大いに貢献しています。

 かつては父親によって厳格に統制され、父子の稼ぎも父親が厳格に配分したり、食事の席ではしゃべってはならないといった規律を貫いていたモーガン家も、時代の流れの中でそうした厳格さを維持できなくなっていってしまい、次第に家族はバラバラになっていってしまいます。この作品では、そんなモーガン家の盛衰と炭坑の町の盛衰が重ね合わせられ、「衰退の美」が非常にうまく表現されています。

 第二次大戦前の欧米社会は、絢爛豪華な20年代から大恐慌を経て経済が衰退するという経験をしたわけで、衰退というものをいかに美しく捉えるかについて非常に敏感になっていたのかもしれません。だいぶ毛色は違いますが、強いて言えば「華麗なるギャツビー」や日本映画でいえば「細雪」のような美しさです。とにかく、この作品は無条件に“美しい”のです。

 そんなわけで、映画の最後の方は溢れる涙が止まりませんでした。