- 出版社/メーカー: 角川映画
- 発売日: 2001/08/10
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瀬戸内海の孤島に、夫(殿山泰司)と妻(乙羽信子)、そして2人の息子の4人家族が慎ましく農業を営んで暮らしている。島は小さく急な斜面で囲まれているため、狭い土地で農作物を育てなければならない。しかも、島には水がないため、他の島から日々小舟で水を運び、急斜面を担いで上り、作物に水をやらなければならない。労働に明け暮れる日々を送っている。
そんな市場経済からは隔絶した生活を送る家族であったが、ある日子供たちが1匹の大きな鯛を釣り上げると、それを町の商店に売りに行き、得たお金で外食をしたり、洋服を買ったり、観光をしたりして楽しんだ。子供たちは町で街頭テレビを見てきょとんとした顔をしている。
そんなある日、夫婦がいつものように水を汲みに船ででかけている間に、息子の1人が倒れてしまう。帰宅した夫は急いで船を漕いで医者を連れてくるが間に合わず息子は亡くなってしまう。ささやかな葬式が営まれ、息子は島に埋葬される。
妻はそんなつらい日々にとうとう切れてしまい、育てている作物を片っ端にむしり出す。夫はそんな妻を冷静な眼差しで見つめ、何事もなかったかのように再び農作業を続ける。そんな夫の姿を見た妻も冷静さを取り戻し、再びいつもの生活が始まっていくのだった・・・。
とにかく、映像美が素晴らしい映画です。瀬戸内海を厚く覆う雲とその隙間から漏れる太陽光線の濃淡は素晴らしく美しい映像です。この作品は、大変乏しい資金の中で撮られた作品で、確かに奇抜な演出といったものは皆無なのですが、資金が乏しい独立系プロならではの映画作りを提唱する効果をもたらし、大きな意義を持った作品であるということがいえます。
この映画が作られて時代は、ちょうど日本にも消費社会が訪れようとしていた時代です。そんな変革の時代にあって、孤島の農業生活は人々の郷愁を誘ったのかもしれません。この作品はモスクワ国際映画祭のグランプリを受賞するのですが、労働の重要性を描いた作品という点では、モスクワで高い評価を得たというのは比較的理解しやすいといえます。
この新藤兼人監督は1912年4月22日生まれの方ですが、いまだにご健在でいらっしゃいます。つまり、96歳になられた現在でも、メガホンをとって撮影をされているのです。この9月には新しい映画「石内尋常高等小学校 花は散れども」という作品が公開される予定だということですから、頭が下がります。
Shindo
作品のテーマ自体はどちらかといえば暗い映画ではありますが、正に映画作りの原点を再確認させられるような作品でした。