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「マルタの鷹」★★★☆

マルタの鷹 [DVD] FRT-109

マルタの鷹 [DVD] FRT-109

 ハードボイルド小説の傑作と言われるダシール・ハメットの原作を映画化したものです。

 私立探偵をやっているサム・スペード(ハンフリー・ホガート)のところ、ワンダリーと名乗る美人の依頼人(メアリー・アスター)が舞い込んできた。彼女は、自分の妹をサースビーという男から取り戻してほしいとのことだった。そこで、スペードと共に探偵を営んでいるアーチャーがその夜サースビーという男を尾行することになったのだが、アーチャーはサースビーとともに死体で発見された。

 スペードはアーチャーの妻はとの関係を警察に怪しまれ、殺人に関与しているのではないかと警察から目論まれる。

 ところが、妹を連れ戻すことを依頼したワンダリーと名乗る女は、作り話をしてサースビーを尾行させていたのだった。彼女の本当の名はオーショーネシーだった。

 スペードの下にカイロという小男がやってきた。カイロはスペードに対し、黒い鳥の彫像を探すことを依頼されていると告白する。

 スペードはオーショーネシーとカイロを同じ場所で引き合わせ話をさせる。そして、2人が共に黒い鳥の彫像を狙っていることを知る。

 さらにスペードは、ガットマンという男から連絡を受け、この男と会うことになる。大男のガットマンは2回目にスペードに会った際に、黒い鳥の彫像の正体をスペードに明かす。

 16世紀にマルタ島を与えられた騎士団は、神聖ローマ帝国の皇帝に毎年一羽の鷹を献上することを約束していた。この騎士団たちは、東方から財産を収奪していたため、多くの財産を所持していたため、皇帝への感謝の気持ちを表すために、宝石を散りばめた黄金の鷹を献上しようとした。ところが、この鷹を運んでいた船は途中で海賊に襲われ、それ以来、この鷹はエナメルで塗り固められ多くの者の手を転々としていた。そして、ある商人が古道具屋でこの鷹を見つけて買い取ったのだが、ある日、この鷹はその正体を知らない何者かに盗まれてしまう。それから17年間、ガットマンはこの鷹を追い続けていたのだった。

 スペードはガットマンに薬入りの酒を飲まされ意識朦朧となるが、香港から船が到着するという記事に印が付けられた新聞を見つけた。ところが、その船は到着後、火災に見舞われてしまう。そして、その船の船長が瀕死の状態でスペードの事務所に黒い鳥の彫像を届けに来て、そのまま絶命してしまった。

 ガットマンはスペードからこの念願の黒い鳥の彫像を譲り受け、いざ包みを開けてみたのだが、それは偽物だった。

 スペードはオーショーネシーに対して、アーチャーを殺したことを白状させた・・・。


 まぁ、原作がそこそこ面白い出来なので、それを忠実に再現したこの映画も、ある程度楽しめる内容になっています。男前のハンフリー・ホガートが依頼人の女性を手玉にとりながら謎を解明していくという内容は、それはそれでスリルがあって楽しめるものです。

 ただ、鷹の彫像の正体がマルタの騎士団の宝物だという壮大な歴史的背景を持つものであるにもかかわらず、その壮大さがあまり話の内容に生かされていないような感じはします。

 また、鷹の彫像が偽物だと分かった後、スペードがオーショーネシーを説き伏せる場面も、物語の最後を飾るにしてはどこかしっくりこない感じを受けました。

 ちなみに、創元推理文庫版の小説の解説の中に、江戸川乱歩の読後感が引用されています。

「ハメットの最上作といわれる『マルタの鷹』は、正直に言うと、退屈しながら、無理に読み終わったようなものであった。第一、宝物の奪い合いという大筋が気にくわないし、利己と術策のかたまりみたいな悪人どもの互いの腹の探り合いに終始しているこの小説は、私にはどうにも興味が持てなかった」(p343)

 私も、正直、この乱歩の読後感にやや近い感じを受けました。