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映画、書評、ジャズなど

Anita O'day「Anita O'Day At Mister Kelly's」

ジャズ

アニタ・オデイ・アット・ミスター・ケリーズ(紙ジャケット仕様)

アニタ・オデイ・アット・ミスター・ケリーズ(紙ジャケット仕様)

 最もお気に入りの女性ジャズ・シンガーといえば、私は文句なくアニタ・オデイを挙げます。重厚な華やかさを備えているかと思えば、ユーモアのセンスも持ち合わせている、感性豊かな女性シンガーです。

 独特のハスキー・ヴォイスで軽快にスキャットするアニタの歌声を聞くと、魂の奥底まで揺さぶられるような感じを受けます。スローなナンバーで背筋をゾクゾクッとさせられたかと思えば、軽快なナンバーでは底抜けに楽しい気分にさせられてしまう、正に人の感性を自在に操る術を心得ているかのような見事な芸当です。

 アニタによれば、アニタは子供の頃の扁桃腺切除手術で、のどの奥にある口蓋(こうがい)垂が誤って切除されてしまい、ビブラートや長いフレーズを維持することができなくなってしまったことから、短い音節のパーカッシヴなスタイルを発展させることができたということのようです。つまり、手術の失敗がアニタの歌声を生み出したというわけで、何とも運命の悪戯を感じてしまいます。

 さて、アニタの録音の中でのお薦めは、シカゴのジャズ・クラブ“Mister Kelly's”で1958年にライブ録音されたこのアルバムでしょう。1曲目の「But Not For Me」はジャズの定番ですが、最高の演奏の1つだと思います。スローな出だしから徐々にアップテンポへ切り替えていく滑らかさは、アニタの持ち味を余すところなく引き出しています。

 3曲目の「Varsity Drag」は、出だしからアップテンポで、軽快なアニタ節の明るさが最大限発揮されています。

 9曲目の「Star Eyes」もドスのきいたアニタの迫力あるヴォーカルが堪能できます。


 ところで、こうしたライブ録音を聞いていると、ジャズの醍醐味の多くは、ライブ盤だからこそ堪能できるという面もあるような気がします。ベンヤミンが「複製技術時代の芸術」という有名な論稿の中でオリジナルの芸術だけが1回限りで持つ「アウラ」という概念を提示していますが、即興を重視するジャズの醍醐味というのは、この「一回性」にあるように思うわけです。

 そうだとすれば、ライブこそがこの「一回性」の魅力を最も発揮できる場であるということになるでしょう。演奏の「一回性」はもちろんのこと、ライブの観客の拍手の「一回性」、会場の空気の「一回性」というのも重要な要素です。そうした様々な「一回性」の要素が奇跡的にうまく融合したときに、ライブ録音の名盤が誕生すると言えそうです。

 このアルバムもそうした例に漏れず、名盤の評価に値する出来映えであることは間違いありません。