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「マイ・ブルーベリー・ナイツ」★★★★

http://blueberry-movie.com/
 ウォン・カーウァイ監督がノラ・ジョーンズをフィーチャーして制作した作品で、2007年のカンヌ国際映画祭でオープニングを飾った作品です。

 場所はニューヨーク。彼氏の浮気が発覚して落ち込んでいるエリザベス(ノラ・ジョーンズ)は、行きつけのカフェのオーナーのジェレミー(ジュード・ロウ)に慰めてもらう。ジェレミーは売れ残りのブルーベリー・パイをエリザベスに食べさせる。ブルーベリー・パイはなぜか毎日売れ残ってしまうのだった。

 エリザベスは彼を忘れるために1人旅に出る。メンフィスでのバイト先のバーで出会ったのは、別れた妻のことを忘れられない中年の警官アーニー(デイヴィッド・ストラザーン)だった。アーニーは若い妻(レイチェル・ワイズ)と結婚したが、その妻は新しい男を作ってしまった。アーニーはその男を瓶で殴りつける。そして、元妻に復縁を断られると、自動車事故で命を落としてしまう。

 また、ラスベガスではギャンブラーの女レスリー(ナタリー・ポートマン)と出会う。レスリーはギャンブルで失った金を取り戻すために、エリザベスが車を買うために貯めている金を借りる。もし返せなかったらレスリーの乗っている車をエリザベスに譲るという条件だった。案の定レスリーはギャンブルに負けたといって、車をエリザベスに譲ることになる。2人は車に一緒に乗って、危篤との連絡があったレスリーの父親の元へ向かうが、父親は既に亡くなっていた。実はレスリーはエリザベスから借りた金を失っていなかったのであるが、エリザベスと一緒に旅をしたかったため、負けたふりをしていたのだった。

 エリザベスは旅先からジェレミーに頻繁に手紙を出す。ジェレミーもエリザベスの居所を突き止めようと、手紙を頼りにあちこちに問い合わせるが、見つからない。

 ようやく別れた彼のことを吹っ切ることができたエリザベスはニューヨークに戻り、ジェレミーの元を訪れる。旅先でもジェレミーの作るブルーベリー・パイの味は忘れられなかった。ジェレミーのカフェでうつぶせで眠るエリザベスに、ジェレミーはそっと口づけをする。エリザベスはジェレミーを抱き寄せ、2人は愛を確かめあったのだった・・・。



 映像中心の美しい作品を生み出す監督として知られるウォン・カーウァイですが、この作品も余計な演出を省き、映像の美しさで勝負しています。ラストのキス・シーンの美しさはこれまでのあらゆるキス・シーンの中でも5本の指に入るといっても過言ではありません。

 ウォン・カーウァイ監督は、ラストのキス・シーンの意味を次のように語っています。

「…旅から帰ってきて、ジェレミーがキスしたとき、エリザベスは自分の手で幸せをつかもうと思ったんだ。自信も出てきたし、欲しいものがはっきりわかってきた。だから彼女は手をジェレミーの肩に乗せたんだ。このキスシーンは、彼女が決断を下した、自分の幸せを自分でつかもうとしたことを表現してるんだよ。」

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 旅先でのエリザベスの経験は、一見すると、ジェレミーとの関係ではあまり関係ないようにも思えます。しかし、1年近い旅の経験があったからこそ、エリザベスは自分の欲しいものにようやく気づいたのであり、旅は決して無駄なものではなかったというわけです。

 ウォン・カーウァイ監督は、この作品で男女の距離をテーマにしたと語っています。

「人間と人間の関係というのは、精神的な距離と肉体の距離がある。時には近くにいても、精神的な距離が離れている場合がある。逆に離れている人でも、心が近づいている場合があるよね。この映画はそうした男女の距離をテーマにしているんだ。」

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 ジェレミーと向き合っているときは、自分がジェレミーをどれだけ欲しているのか分からなかったのが、距離を置くことによってかえって心と心の繋がりは深みを持つようになる、という経験は、多くの方がお持ちではないかと思います。この映画では、そんな恋愛の心情とエリザベスの旅のエピソードとがうまく結びつけられて描かれているのです。

 映画の最後に流れる字幕が非常に印象的だったので、最後に記しておきます(正確な再現ではありませんが・・)。

「1年近くかかったけれど、道を渡るのはそう難しくない。反対側に待つ人次第なのだ。」