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「処女の泉」★★★★☆

処女の泉 [DVD]

処女の泉 [DVD]

 1960年製作のスウェーデンの映画で、中世の北欧伝説をイングマール・ベルイマン監督が映画化したものです。全編を通じてキリスト教の色彩が濃く出ており、静かに流れていきつつも緊張感が途切れることのないモノクロの作品です。

 時代は16世紀、豪農の一人娘カリン(ビルギッタ・ペテルソン)は、父親の教えに従い、忠実に貞節を守っていた。カリンは離れた教会へろうそくを捧げに馬に乗って向かうことになり、身重の養女のインゲリ(グンネル・リンドブロム)もそれに同行するが、インゲリは普段からカリンのことを憎んでいた。

 インゲリは途中、薬をもらいにある家に立ち寄ったため、カリンは1人で教会に向かっていた。そこに3人の山羊使いの男たち(1人は少年)と出会う。彼らはカリンの気を引いて、一緒に食事をとったのであるが、男たちはカリンを乱暴した挙げ句、棒で殴って殺してしまう。そして、カリンが着ていた絹のドレスをはぎ取る。

 後からカリンを追いかけていたインゲリは、カリンが乱暴され殺される一部始終を目撃していたが、カリンのことを憎んでいたことから、カリンを助けず、ただ眺めるだけだった。

 カリンの両親は娘の行方を心配していたところ、3人の山羊使いはカリンの両親の家にそれとは知らずに立ち寄り、泊めてもらうことになった。そして、彼らは、カリンからはぎ取った血のついた絹のドレスをカリンの母親に買い取るよう求めてきたことから、カリンの両親はこの男たちが自分の娘に危害を与えたことに気づき、父親は復讐を誓う。

 父親はすぐに山からとってきた木の枝で身を清め、2人の男を次々と殺していった。そして、家族たちとカリンを探しに向かったのだが、森の中で娘の亡骸を発見したのだった。

 父親はこの場所に教会を建てることを神に誓う。そして、娘の亡骸を抱きしめるために持ち上げると、そこからは泉が吹き出してきたのだった・・・。

 ベルイマン監督は牧師の子として生まれたのだそうで、それが映画の宗教色にも強く投影されています。

 インゲリが竈の火をふぅーふぅーと吹いている最初の場面からして、ものすごい緊張感が漂います。そして、カリンが男たちから乱暴されるシーンは、思わず目を覆いたくなるほど、壮絶なものです。貞節を守り続け、親からも寵愛され、男たちを信じて疑わない無垢な娘が、男たちの魔の手に落ちていく描写は、あまりにもリアルで無惨過ぎます。

 この描写の無惨さに抵抗を感じてしまう方も多いかもしれませんが、ベルイマン監督には、ここまでして描きたかった人間性や神と人間との関係についての深い洞察を持っていたのでしょう。

 映画の出来は大変素晴らしいものでした。