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「アンタッチャブル」★★★★

アンタッチャブル(通常版) [DVD]

アンタッチャブル(通常版) [DVD]

 ご存じ、禁酒法下のアメリカで酒の密売に関わり暗躍したアル・カポネと、それに立ち向かう捜査官との間で繰り広げられる闘争を描いた作品です。

 酒の密売を取り仕切るアル・カポネロバート・デニーロ)は、我が世の春を謳歌していた。彼らは自分たちの手配した酒を購入するように小売店主たちに迫り、それが聞き入れられないと、容赦なく命を奪い、小さな子供たちがそうした殺戮の犠牲となることもあった。そんなアル・カポネの横暴に対して、強い正義感を抱いて立ち向かうことになったのが、財務省から特別捜査官として派遣されてきたエリオット・ネス(ケヴィン・コスナー)だった。ネスは、FBIと連携してアル・カポネの密売を摘発しようとするが、なかなかうまくいかない。そんなとき、ネスは、初老の警官ジミー・マローン(ショーン・コネリー)と出会う。ネスはマローンの協力を仰ぎ、4人のチームを結成する。彼らは“アンタッチャブル”と呼ばれ、一目置かれることになる。
 “アンタッチャブル”はアル・カポネの脱税を暴いて摘発しようとするが、そのためには帳簿係を捕らえる必要があった。そんなとき、マローンはアル・カポネの一味から襲撃され殺害される。マローンは、息を引き取る直前に、帳簿係が駅に姿を現すことをネスに伝える。ネスは深夜の駅で激しい銃撃戦を交え、帳簿係を捕らえる。
 こうして、アル・カポネの裁判が始まるが、実は陪審員たちはアル・カポネに買収されていることにネスは気づく。ネスは急遽裁判長にそのことを伝え、陪審員たちは全員別の事件の陪審員たちと交代になる。結局、アル・カポネは懲役11年の判決を受ける。
 ネスは今や英雄的存在となった。記者から禁酒法が廃止になったことを告げられたネスは、

「一杯やるよ」

と言い残して、歩き去っていく・・・。

 ラストシーンのかっこよさは、絶品と言えるでしょう。

 ところで、1920年代のアメリカ社会の異常さを象徴するのは、やはり禁酒法の存在でしょう。フレデリック・アレンが『オンリー・イエスタデイ』の中で、

「国民はそれ(=禁酒法)を進んで受け入れたばかりか、ほとんどうわの空で受けいれた」

と述べているように、禁酒法第一次世界大戦下の禁欲的な空気の中でいとも簡単に成立してしまったのです。

「…国民が一体になって禁酒法制度が不可避であることを受けいれたので、新聞でも、夕食会の席上での議論でも、この法律が実施できるかどうかという問題をとり上げるものはほとんどいなかった。」

という言葉からも、深刻な問題意識が欠けた当時の雰囲気が伝わってきます。

 しかし、禁酒法に対する国民感情の変化は呆れるほど早く、戦争が終わると禁酒法に対する国民の態度はがらっと変わることになります。禁酒法に基づく取り締まりは本気で行われることはなく、摘発は実効が上がりません。

 さらに悪いことに、ギャングが禁酒法に目をつけ、非合法の酒類の販売が儲かることに気づくことになります。1920年、シカゴ暗黒街で強大な人物だったジョニー・トリオは、シカゴ全市への酒の分配権を支配しようと奮い立ち、ニューヨークのギャング集団のメンバーで当時23歳の暴れん坊をシカゴに呼び寄せます。それがアル・カポネです。

 アル・カポネは、瞬く間に大勢の部下を使い回すようになり、大金を稼ぎ出しますことに成功し、トリオを凌ぐ権勢をふるうようになります。

 特にギャングの儲けにつながったのは、ビールの密売だったそうです。なぜなら、ビールはトラックで運ばなければならず、トラックは偽装が難しいので、禁酒法関係の役人や警官を買収したり、掠奪に備え銃で護衛する必要があったからで、カポネもビールの密売で相当な儲けを上げていたようです。

 このように、禁酒法は、ほとんど守られることがなかったばかりか、ギャングたちを潤わせることになってしまったわけで、それが果たして正義に適った規制であったという捉え方は極めて困難と言えます。この映画では、ラストのネスの「一杯やるよ」という言葉に象徴されているように、禁酒法自体を正義として位置づけているわけでは必ずしもなく、主眼はギャングの横暴との対決に置かれて描かれているように思うのですが、ただ、禁酒法自体が否定的な歴史的評価を受けている中で、禁酒法をふりかざして悪と闘うという全体の構成は、やや難があったのではないかという印象を受けてしまうことも事実です。

 とはいえ、ストーリー的には非常によくできた映画ですし、駅の階段を転げ落ちる乳母車を気遣いながら激しい銃撃戦を繰り広げるケヴィン・コスナーの演技は見応えがあり、必見の映画と言えます。