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映画、書評、ジャズなど

中国が海外アニメ規制強化

 産経WEBに次のような記事が掲載されています。

中国が海外アニメ規制強化 夜4時間放映禁止
 中国国内の映画や放送を管理する国家ラジオ・映画・テレビ総局は22日までに、毎日午後5時から同9時のゴールデンタイムに海外アニメの放映を禁じる通知を全国各地のテレビ局に出した。5月1日から実施する。
 これまで午後5時から同8時までだった禁止措置を延長、強化する内容。通知は「わが国のアニメ産業に良好な市場環境をつくり出すため」としているが、文化面の規制強化に内外から批判の声も上がりそうだ。
 中国では日本アニメが高い人気。今回の規制強化には、自国のアニメ産業の保護に加え、日本文化の若者への影響を懸念する声も背景にあるとみられている。
 公表された通知は、午後5時からの4時間は海外アニメの放映や紹介を禁止、国産アニメの放映だけを認めると規定。内外合作のアニメの放映については同総局の許可が必要としている。
 また、ゴールデンタイム以外に海外アニメを放映する場合も、同総局の許可を得ることを義務付け、国産アニメと海外アニメの放映の比率は国産が7割を下回らないよう求めている。(共同)

http://sankei.jp.msn.com/world/china/080222/chn0802221029002-n1.htm

 中国で放映されているアニメの8割は、日本のアニメが占めているとされていることから、中国が海外アニメを規制するということは、事実上、日本のアニメを閉め出そうということと同義であるわけです。日本のアニメの中国への浸透は、我々が思っている以上に進んでおり、そうした現状を中国当局が危惧したことが、今回の規制措置の強化につながっているわけですが、この記事と関連して、最近私が注目しているインターネット上のコラムを御紹介したいと思います。それは、遠藤誉さんという方が書かれている、中国における日本のアニメ事情についての興味深いレポートです。
中国"動漫"新人類:日経ビジネスオンライン
(※無料会員登録が必要です。)

 以下、このコラムを参照しながら、中国のアニメ事情を見ていきたいと思います。

 遠藤氏によれば、中国の動漫(=アニメ)市場の規模は、DVDやビデオソフト、コミック、放送料、映画興行実績などの総計で、約千億元(日本円で1兆五千億円)にも上るとのことです。さらに、関連するキャラクタービジネスの市場規模が数千億元ということですから、両者を合わせると、数兆円の市場があるということになります。だから、中国当局が、この市場規模を当て込んで、国産のアニメ振興に力を入れることは当然のことといえます。

 中国政府には「国家広播電影電視総局」という組織があり、映画やテレビ等のマスメディアを統括していますが、この組織が2005年1月から、国産テレビアニメ発行許可制度を実施して、その内容を厳しく規制しています。この組織はさらに、許可を受けた動画産業基地に対して、毎年業績評価を行い、優秀な基地を表彰するとともに、年間生産量3000分という数値目標を課し、これを満たさない場合は資格が取り消されるかもしれないといった文書を発しているというのです。

 不良基地とみなされれば、資格を剥奪されてしまうわけですから、この数値目標は大変厳しいものといえます。

 ここで、注目されるのは、中国のウェブサイトがこの事態を

「国家広電総局は、全国の各動画産業基地に“緊箍咒”を与えた」

と表現している点です。遠藤氏によれば、“緊箍咒”というのは、いわゆる「金縛りの術」なのだそうです。では、この政府の通達がなぜ「金縛りの術」なのか。これは、中国で日本のアニメの“盗作”が頻繁に起こっていることと無関係ではないようなのです。

 つまり、こういうことです。中国でアニメを作っても、テレビ局に安く買いたたかれてしまう。それはなぜかといえば、日本のアニメが先例となっているからなのだそうです。中国に最初に入ってきた日本アニメである手塚治虫の「鉄腕アトム」は、非常に安い価格で中国側に放映権を与えたとのことで、これが中国側からすれば

ダンピング

として受け止められているそうなのです。

 かつては、まだ日本のテレビ局でもアニメの放映権は安い値段で買い取っており、ましてや中国で高く売るということ自体非現実的だったわけで、日本側にしてみれば決してダンピングの意図などなかったわけですが、そうした事情にもかかわらず、中国側にしてみれば、中国の国産アニメが発展できないように日本側がダンピングをしているという受け止め方をしているのだというのです。

 そういう状況の中で、政府が厳しい数値目標を課してきたとすれば、中国の動画産業基地が取りうる方途は、制作費をかけないで粗製濫造するか、手っ取り早く日本アニメを模倣するしかなかった、こうした状況が“緊箍咒”(=金縛りの術)という表現につながってきたのだ、というわけです。

 つまり、中国政府が海外アニメ(=日本アニメ)の規制に走った背景には、このように、日本のアニメをダンピングとして受け止めるような風潮が存在し、それが日本アニメに対する政府当局の反感にもつながっているという事情があったといえるわけです。

 では、テレビから海外アニメが締め出されたことで、どのような影響があったのか。この点について、遠藤氏は興味深い指摘をされています。

 中国が2006年9月にゴールデンタイムから海外アニメの締め出しを行った直後、中央電視台少児チャンネルで放映されたアニメは、残虐な場面を多く含むものであり、全国から放映停止を求める声が沸き起こり、結局、中央電視台はこのアニメの放映を停止してしまったというのです。しかし、今度は、放映を停止された子どもたちが騒ぎだし、中央電視台は再び放映を再開する羽目になったとのことです。

 こうした状況を見る限り、中国政府による強権的な国産アニメ振興策というのは、なかなかうまく機能しているという状況にはないようです。もともと日本のアニメ業界は政府の介入がない中で魅力的な作品を次々と生み出しているわけで、中国政府もこのことをよく自覚しないと、大衆から受け入れられるアニメを振興させることはできないということなのでしょう。

 それから、遠藤氏の強調されているもう1つ興味深い点は、

「中国全土を席巻するほどの、ここまでの激しい日本動漫ブームは、結果的に見るなら海賊版がなかったら到来していなかったはずである」

という点です。

 こうした指摘は、中国における海賊版に怒りをぶつけている関係者にとっては皮肉なことであり、こうした指摘自体が許し難いと受け止める関係者も多くおられるかもしれませんが、あながち的はずれな指摘ともいえないように思います。

 1990年代の中国では、「セーラームーン」や「スラムダンク」といった日本アニメが放映され、中国の若者たちの心を掴み、日本のアニメに憧れる若者たちが作られていったわけですが、遠藤氏によれば、中国の若者たちが日本のアニメに対する熱狂のピークを迎えるのは中学生の時期らしいとのことです。そして、すでに2001年の調査において、中国の中学生たちが一番の興味のある「日本」はアニメーションだったそうです。そうした世代が大人へと成長していく過程で、次第に日本について幅広い知識を身につけていくという傾向があるようなのです。

 いまだに所得水準が十分高いわけではない今日の中国の若者たちが日本のアニメやマンガに触れることができるのも、DVDや漫画本が安価に手に入るからであることは言うまでもありません。したがって、

「私たちは否定することのできない事実を直視しなければならない。それは「新しい市場、特に比較的貧しい国の市場に異なる文化が流入し定着するには、安価な、あるいはタダに近いかたちでその文化が流通するのが前提となる」という事実だ。そして中国市場における日本動漫の場合、その役割のかなりの部分を海賊版が果たしていたことはまちがいない。」

という遠藤氏の指摘は決して間違いではないのです。

 かといって、直ちに、海賊版の取り締まりをすべきでないといったような帰結に結びつくわけではもちろんなく、当然、著作者のインセンティブが確保されるような権利保護がしっかりとなされるべきだと思いますが、我が国の文化の魅力を対外的に発信していくというソフト・パワーの文脈だけで考えれば、中国における海賊版の取り締まりの強化が一概にハッピーな結果を生み出すわけではないというのも、これまた皮肉な真実であるわけで、そう単純な問題ではないなぁ、という気もするわけで、考えさせられてしまいます。

 このコラムを書かれている遠藤氏は「中国動漫新人類日本のアニメと漫画が中国を動かす」という本も書かれているようなので、こちらの方もいずれ目を通してみたいと思います。

中国動漫新人類 (NB online books)

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