- 出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント
- 発売日: 2004/03/21
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チャップリンはこの映画の中で、ヒトラーをモデルにしたヒンケルと、ヒンケルにそっくりな容貌の床屋の二役を演じています。
チャップリン扮するユダヤ人の床屋は、戦争に出兵していたときに記憶を失い、その後、しばらく入院していた。ようやく退院して自分の店に戻ったが、時代は大きく変わっており、トメニア国ではヒンケルの独裁体制が構築されており、街中を闊歩するヒンケルの突撃隊たちがゲットーに住むユダヤ人たちを片っ端から弾圧する世の中となっていた。
床屋も突撃隊の弾圧を受けるが、戦争の際に助けたシュルツがヒンケル側近の重臣となっていたため、その恩から弾圧を免れた。
しかし、ユダヤ人に同情的だったシュルツは、ヒンケルの怒りを買って失脚し、これを機にユダヤ人たちへの弾圧は強まっていく。シュルツはゲットーにかくまわれるが、結局、床屋とシュルツは共に収容所へ送られる。
時を同じくして、ヒンケルは、オスタリッチへの侵略を企てるが、隣国のバクテリアも同じくオスタリッチへの侵略をもくろんでいた。ヒンケルはバクテリアの独裁者を欺いて侵略に踏み切ることにし、ヒンケルはこっそりと国境に向かう。
ちょうど同じ頃、床屋とシュルツは幹部服を着て収容所を脱走し、国境へ向かっていた。そこで、ヒンケルとそっくりな床屋は、ヒンケルと間違えられ、そのままオスタリッチへと入っていった。そして、あの有名な演説の場に立たされる・・・。
独裁者の醜さをこけにするチャップリンの表現力は秀逸です。ヒンケルがビニールボールの地球儀と戯れるシーン、椅子の高さをめぐって隣国の独裁者との間で繰り広げる巡るささいな争い、ヒトラーを徹底的にこき下ろさなければならないというチャップリンの並々ならぬ意欲を感じます。
本来、チャップリンは、ユーモアの力だけでヒトラーをこき下ろしたかったのかもしれません。しかし、最後の最後にチャップリンは、ラストのシーンで、もはやユーモアを放棄して、ストレートな形でメッセージを伝えることとなります。
この映画を最も有名にさせているのが、ラストのチャップリンの長い演説のシーンです。この演説はチャップリンが精魂込めて書き上げたもので、正にチャップリンの思想が凝縮されています。平和への思い、機械と化した労働者たちが置かれた立場に対する危惧等々。
実はこのラストは、当初から予定されていたものではありませんでした。この場面の台本には、“dance”と書かれていたのです。つまり、当初、チャップリンは、戦争が終結して、皆が楽しく踊り出すというハッピーエンドを構想していたわけです。
実際、撮影現場を撮ったビデオの中でも、兵士たちが武器を捨てて楽しく踊り出すシーンが映されています。しかし、チャップリンは、この“dance”シーンの撮影には満足せず、結局、ラストに演説シーンを持ってくることにしたのです。映画会社は収入が減ると強く反対したものの、映画を撮っていた当時、世界情勢はもはや一刻の猶予も許さないほど緊迫した情勢となっており、ストレートな言葉でメッセージを伝えなければならないというチャップリンの意志は固かったわけです。
この作品は1940年秋に公開されましたが、当時、この演説シーンの評判はあまりよくなかったとのことです。ナイーブで楽観的とみなされ、左翼からは感傷的に過ぎるといわれ、右翼からは共産主義のプロパガンダと非難されました。
作品の上映に当たっても、様々な抵抗を受けます。時のアメリカ大統領ルーズベルトからは、「独裁者」は外交の妨げになると牽制を受け、日本を含む世界各国で上映が禁止されます。
しかし、後世からは絶大な評価を受けることになります。チャップリンが長い間築き上げてきた「チャーリー」のキャラクターをラストのシーンで捨ててまでして伝えなければならないことがチャップリンにはあった、その思いの強さは時を隔てるほど身にしみて伝わってくるような気がします。
正に“歴史に残る映画”という名に最も値する映画と言えるでしょう。
P.S.ちなみに、チャップリンの映画をより良く理解するためには、チャップリン研究家の大野裕之氏が書かれた『チャップリン再入門』が最も素晴らしいと思います。大野氏はチャップリンの未公開映像アウト・テークスを丹念に研究された方です。大野氏はチャップリンのコレクターズ・エディションのDVDの解説等の執筆・監修もされていて、私はチャップリンのDVDを買う時は、このバージョンを買うことにしています。大野氏も出演されていたNHKの「チャップリン 世紀を超える」も大変よくできた番組でした。
- 作者: 大野裕之
- 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
- 発売日: 2005/04
- メディア: 単行本
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