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映画、書評、ジャズなど

Art Pepper「Art Pepper Meets The Rhythm Section」

アート・ペッパー・ミーツ・ザ・リズム・セクション+1

アート・ペッパー・ミーツ・ザ・リズム・セクション+1

 アート・ペッパーがマイルス・バンドのリズムをバックに吹き込んだ“名盤中の名盤”です。全体を通して極めてまとまりのある演奏で貫かれており、アルバムとしての完成度は大変高いものです。ジャズの初心者にも大変聴きやすい作品でもあります。

 アート・ペッパーの演奏は、控えめな職人を連想させます。技巧に走り過ぎるわけでもなく、淡々と自分の役割を果たしていて、なおかつ、その演奏は決して無味乾燥なものではなく奥深いものとなっている、そんな印象です。

 そして、この人の演奏からは、どこか人生を刹那的に捉えているような感じが伝わってきます。アート・ペッパーが薬に溺れていったことはよく知られていますが、このアルバムの演奏からも、誘惑に抗しきれないどこか弱い部分を持った人柄が伝わってくるような感じがします。

 そんなアート・ペッパーの人柄が最も現れている演奏が、1曲目の「You'd Be So Nice to Come Home To」です。アート・ペッパーといえばこの曲というイメージがありますが、この人の魅力を最も引き出すことができるのがこの曲なのだと思います。明る過ぎるわけでもなく、暗過ぎるわけでもない、でも人生の喜怒哀楽を感じさせるメロディーです。それがアート・ペッパーのつぼを突いたのでしょう。

 そんなアート・ペッパーが少し力んで演奏しているのが、5曲目の「Straight Life」です。曲調は速いのですが、職人気質のアート・ペッパーらしく、決して焦った様子を見せず、落ち着き払いながら黙々と演奏しています。

 私が個人的に愛聴している演奏は、6曲目の「Jazz Me Blues」です。まじめな職人が精一杯おどけてみたという感じの演奏です。

 ちなみに、このアルバムの録音は、アート・ペッパーはその日の朝まで知らされていなかったようです。アレンジをしていた彼の妻が、アートが気を張りつめないようにという配慮をしたためのようですが、彼は数週間もサックスを吹いておらず、サックスが乾ききった状態で録音をしなければならないという最悪の状態でした。しかし、そのことによって逆に、アートはかつての自分に舞い戻ってプレイすることができたのです。

 彼自身、感じたままに演奏したと述べているように、アートの即興的なプレイが奇跡的に生み出した珠玉の作品といえます。