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「椿三十郎」★★★★

椿三十郎<普及版> [DVD]

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 明日から森田芳光監督、織田裕二主演で公開されるので、その前に改めて黒澤明監督、三船敏郎主演の原作を見直してみました。

 映画は9人の若い侍達が密かに集まって談義する場面から始まる。彼らは、城代家老に対し、汚職粛正の告発をしたものの、快い返事がもらえず、逆に大目付の菊井からは理解ある言葉をもらったことから、菊井に諭されて集まっていたのだった。大目付の菊井を信用している9人の談義を聞いていた椿三十郎三船敏郎)は、菊井が影の首謀者だという。案の定、菊井の一味は9人の居た場所を急襲してきた。9人はすかさず隠れ、三十郎は菊井の勢力を切り倒し、9人は事なきを得た。

 三十郎の予言どおり、菊井らは城代家老とその妻、娘を屋敷から連れ去り監禁していた。9人の侍達は三十郎に頼って城代家老を助け出そうとし、三十郎も9人の侍達の不甲斐なさを放っておけず、10人は共に行動することになる。

 若侍たちはまず城代家老の妻と娘を救出し、そして、城代家老は椿屋敷に監禁されていると見て、椿屋敷と小川でつながっている隣家に陣取った。しかし、椿屋敷には菊井側の大勢の勢力がいて容易に救出することはできない。そこで三十郎は、敵方に嘘の情報を伝え、菊井側の勢力を離れた寺に誘い出し、小川に椿の花を流すのを合図に、9人の侍達が救出のために突入することにした。菊井側は偽情報にうまく騙されて屋敷の外におびき出されたものの、その情報が嘘であることがばれてしまい、三十郎自身が椿屋敷で捕らえられてしまった。

 しかし、三十郎は言葉巧みに敵を騙し、椿の花を小川に流させることに成功し、城代家老は無事救出された。

 その後、三十郎は静かに立ち去っていく・・・。

 最後の決闘の場面が終わり、三十郎は9人の若侍たちに向かって

「本当にいい刀は鞘に入っている。おまえたちもおとなしく鞘に入っていろよ。」

と話す場面は、三船の貫禄が光っています。

 ところで、日本人というのは、三十郎のような無償の愛を提供するヒーローが好きなようですね。冷静に考えれば、三十郎がなぜ命を冒してまで9人の若い侍たちと行動を共にしなければならなかったのかは不思議です。しかし、日本のヒーローものでは、ウルトラマンなどもそうですが、無償の愛を提供するヒーローが結構います。ウルトラマンを日本とアメリカとの関係に結びつけ、そうした無償の博愛主義こそが日本人が潜在的に受け入れることのできるヒーロ像だという議論を展開したのが、以前の記事アンパンマンの正義 - loisir-spaceの日記で御紹介した佐藤健志氏の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』ですが、『椿三十郎』のヒーロー像も、こうした議論と相関性を持っているといえるかもしれません。

ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義

ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義

 この映画を見て、改めて三船敏郎の圧倒的な存在感を身にしみて感じました。原作と同じような路線で原作を超えるというのはおそらく不可能でしょう。ちなみに、各紙の映画評によれば、今度のリメイク版はむしろコミカルな面が強調されているようなです。

 リメイク版を見て原作を超えたと思うことはなかなかないことは重々承知ではありますが、今度の新作、一応期待して是非見てみたいと思っています。