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「ダイヤルMを廻せ!」★★★★☆

ダイヤルMを廻せ! 特別版 [DVD]

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 これもヒッチコックの最高傑作の1つに数えられる映画です。

 元テニスプレーヤーのトニー(レイ・ミランド)は、資産家の娘である妻マーゴ(グレイス・ケリー)と結婚していたが、2人の関係は冷め切っており、マーゴは推理作家のマーク・ホリデイ(ロバート・カミングス)と恋仲にあった。マーゴとマークの関係を良く思っていなかったトニーは、マーゴの殺害を企てる。

 トニーは、大学時代の友人で、かつて刑務所に入っていたことがあるレスゲートを巧みに陥れ、マーゴの殺害を依頼する。トニーはマークをあるパーティーに誘い出し、マーゴを自宅で1人にさせる。トニーはパーティー会場からアリバイのためにマーゴに電話をかけ、そこへあらかじめトニーから自宅の鍵の隠し場所を教えられたレスゲートが玄関の鍵を開けて侵入してマーゴの首を絞めて殺害し、レスゲートはあたかも窓から侵入したように装うという計画だったのだが、襲われたマーゴは手元にあったハサミでレスゲートを殺害してしまった。

 トニーは、自らの関与が疑われることをおそれる。捜査に当たってハバード警視は、レスゲートが窓からではなく玄関から侵入したことを突き止めたものの、マークがマーゴに宛てた恋文を盗んだレスゲートがマーゴを脅したためにマーゴがレスゲートを殺したと判断し、マーゴを殺人犯で逮捕し、マーゴは死刑判決を受けてしまった。

 死刑判決が執行される直前、ハバード警視は、レスゲートがあらかじめトニーから教えられた場所に隠してある鍵を使って侵入してマーゴを殺害しようとしたことを突き止め、トニーがマーゴ殺害計画の首謀者であることが暴かれた・・・。


 この話のポイントとなるのは、レスゲートがどうやって自宅に侵入したかという点です。自宅の鍵は2つしか存在せず、1つはトニーが、もう1つはマーゴが所持しています。そこで、レスゲートを自宅に侵入させるために、トニーはあらかじめマーゴのバッグから鍵を抜き取り、それを玄関前の階段のカーペットの下に隠し、その隠し場所をレスゲートに伝えていたわけです。だから、トニーは、レスゲートが殺害されたときに、まだ鍵を持ったままであると思い込み、レスゲートのポケットから鍵を抜き取って、密かにマーゴのバッグに返しておくのです。

 ところが、レスゲートは階段に隠された鍵を使って侵入したものの、すぐに鍵を階段の下に戻しておいていたので、実は殺害されたときには既に鍵を持っていなかったのです。つまり、レスゲートのポケットにあった鍵は、トニーとマーゴの自宅の鍵ではなく、別の鍵だったというわけです。

 ハバード警視は、当初、レスゲートが使った鍵は、レスゲートが盗んだマーゴのバッグの中に入っていた鍵で作られた合い鍵だという説明を真に受けますが、その後、マーゴのバッグに戻された鍵がレスゲートの鍵であったことを探り当てます。そして、ついに階段の下に隠したままの鍵を見つけ出します。

 こうして、ハバード警視は、最後のシーンで、トニーが階段の下の隠し場所を知っているかどうかを試すことになります。ハバード警視はあらかじめトニーのコートと自分のコートをすり替えてトニーの鍵を取り上げておきます。そして、刑務所からマーゴのバッグを持ち帰ってきたトニーは、マーゴの鍵を使って家に入ろうとしますが、鍵が開けられない。そこでトニーは、マーゴのバッグに戻した鍵がレスゲートの鍵であることに初めて気が付きます。そうだとすると、自宅の鍵は階段の下に隠されたままだということになる、とトニーは考え、階段の下に隠された鍵を使って自宅に入る。と、そこには、ハバード警視やマーゴらが待ち受けていた。

 この2つの鍵を巡る思案が、この映画のストーリーの最大のポイントです。この部分は、1回見ただけではやや分かりにくいのですが、2回目以降見てみると、ストーリーが実にうまく出来ており、ラストの解決に向かう展開の鮮やかさに驚かされます。

 文句なく、ヒッチコック映画の中でも上位に位置づけられる面白さです。