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「天井桟敷の人々」★★★★

DVD>天井桟敷の人々 (COSMIC PICTURES 123)

DVD>天井桟敷の人々 (COSMIC PICTURES 123)

 映画通には圧倒的な高評価を誇るフランス映画ということで、今回初めてDVDで見てみました。前編・後編から成る3時間以上の大作です。映画自体、非常によくできた作品であることは間違いありません。

 物語は、パントマイム芸人のバティスト(ジャン=ルイ・バロー)と裸を売りにする女芸人ガランス(アルレッティ)の恋を軸に進んでいきます。通称犯罪通りにある劇場フュナンビュル座の前でパントマイムを演じていたバティストは、それを見ていたガランスが時計スリの嫌疑をかけられているのを見て、巧妙なパントマイムでガランスの無実を証明する。こうしてバティストとガランスは知り合うが、ガランスの周りには、俳優のルメートル、無頼漢のラスネールらがガランスを狙っていた。

 バティストは連れられて訪れた飲み屋で、無頼漢ラスネールの下からガランスを強引に連れ出したが、シャイなバティストは2人きりの部屋でもガランスをものにする直前に逃げ出してしまう。

 その後、ガランスは、バティストが務めていたフュナンビュル座で女優を務めることになったが、座長の娘ナタリーはバティストを愛していた。そこへ、大富豪のモントレー伯爵がガランスに近づいてくる。ガランスは、強盗の濡れ衣をはらすために、モントレー伯爵と一緒になってしまう。

 ここで前半が終わります。

 それから5年後、モントレー伯爵と一緒になったガランスはバティストのことがずっと忘れられず、フュナンビュル座を訪れる。しかし、バティストは座長の娘ナタリーと結婚し、子供を1人もうけている。ガランスはバティストから忘れられたと傷つき、パリを去ろうとしているが、バティストもガランスのことがずっと忘れられずにいたため、2人は再び急接近していく。

 しかし、2人が抱き合っている時に、ナタリーが部屋を訪ねてきて、ばったり出くわしてしまう。妻子ある身のバティストと一緒になることができないと悟ったガランスは、謝肉祭の喧噪の中、バティストの下から去っていく。バティストはその後を「ガランス!」と叫びながら必死に追っていく・・・。

 さすがフランス映画らしく、愛の告白の場面などは素晴らしくよくできています。「次はいつ会える?パリは広い。」と言うルメートルに対して、ガランスが

「愛し合う2人にはパリは狭いわ」

と応じる場面は、やはり印象的です。

 ガランスをとり囲む各登場人物が繰り広げる葛藤や嫉妬等々の人間模様も非常に巧く描かれています。

 ただ、この映画の誰かに感情移入できるかとなると、今日の我々には少々難しいように思います。特に、最後の場面で、バティストは妻子を置き去りにしてガランスを追っていくわけですが、バティストのそうした行動に感情移入することは難しいでしょう。

 とはいえ、この映画が作られたのがナチスの占領下のフランスであり、自由が束縛されていた時代であったことを考慮すれば、この映画が伝えようとしているのは、人間の内面だけは支配し得ない、というメッセージであるような気もします。

 最後に、双葉十三郎氏が『外国映画ぼくの500本』の中で述べられている言葉を引用しておきます。私もそのとおりだと思います。

「ここには歓びも哀しみも残酷も皮肉も含まれているが、それらすべてを超えてぼくたちの胸にひびいてくるのは、人間の自由のいかによきものかという一事である。」