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「邂逅(めぐりあい)」★★★☆

邂逅(めぐりあい) [DVD] FRT-164

邂逅(めぐりあい) [DVD] FRT-164

 本作はレオ・マッケリー監督による1939年の作品ですが、その後たびたびリメイクされている映画です。

 プレイボーイのミシェル・マルネー(シャルル・ポワイエ)は、大富豪の娘と結婚するために豪華客船に乗ってアメリカに向かうが、その船上で、歌手のテリー・マッケイ(アイリーン・ダン)と出会う。テリーにも目的地で待つ恋人がいる。2人は、寄港地の島でミシェルの祖母の家に訪れたりするうちに、次第に恋に落ちていく。ミシェルの祖母もテリーを気に入り、自分のショールをそのうちテリーにあげることを約束する。

 ミシェルはテリーとの結婚を望むが、今まで働いたことのないミシェルは、6ヶ月待ってほしいという。そして、2人は、6ヶ月後の7月1日の17:00にエンパイア・ステート・ビルの102階で会う約束をして、船を離れる。

 その間、テリーは歌手の仕事を見つけ、ミシェルも一人前の画家になるために励む。そして、約束の7月1日、ミシェルはエンパイア・ステート・ビルの102階でテリーを待つが、テリーはエンパイア・ステート・ビルの足下までたどり着いたところで交通事故に遭い、2人は会うことができなかった。

 テリーは、その後足が不自由になり、療養に励み、ミシェルもさらに画家として励む。そして、6ヶ月後のクリスマスイブ、ミシェルはテリーの居所を突き詰め、突然訪ねる。足が不自由なことを隠したいテリーは、ミシェルから7月1日にエンパイア・ステート・ビルの102階に来なかった理由を質問されるが、答えない。ミシェルは、テリーにはもう自分に対する愛情がなくなってしまったと感じる。

 ミシェルは、祖母がテリーにプレゼントすることを約束したショールをテリーに渡す。そして、ミシェルは、そのショールを着たテリーの絵を描いて大切に手元に置いていたが、ある貧しい女性にその絵をあげたことをテリーに話す。実は、その絵を手に入れたのはテリーだった。そして、2人はいまだに互いに愛し合っていることを確認したのだった・・・。


 この映画では、多くの場面でエンパイア・ステート・ビルが背景に登場しています。エンパイア・ステート・ビルは1930年に竣工しているようで、当時、エンパイア・ステート・ビルが人々の憧れの象徴としての機能を果たしていたことが分かります。

 そして、2人の出会いの場が豪華客船であるということも、この時代を象徴しています。豪華客船は、一定の期間の間、乗客たちを船という空間の中に閉じこめ、その中で様々な人間関係、社交、恋愛が生じるわけで、19世紀から20世紀にかけて、豪華客船は、有閑階級による新しい時間の使い方のモデルを形成するようになります。

 フランスの著名な歴史家アラン・コルバンは『レジャーの誕生』の中で、次にように述べています。

レジャーの誕生

レジャーの誕生

「一八六〇年代初頭から二〇世紀中葉にかけて、豪華客船は非常に大きな変化を経験した。客船の歴史は加速されたが、これは試練から快楽への変遷の歴史でもある。これは自律的実践としてのクルージングの、漸進的な出現を明白に証明するものである。到着時の安堵と感動を待ちわびる心配症の乗客が、速度・安全性・(最小限の)快適さに寄せる関心は、少しずつこれを、冒険の感情や田園詩の欲望、社交界でのつきあいの中で演じられる祭りの喜びへと座を譲っていった。」(コルバン『レジャーの誕生』p76)

 少しわかりにくい訳となっていますが、要するに、この時期に客船は、有閑階級の欲求を満たすべく、快楽性が追求されるようになり、より一層、非日常を演出する空間となっていったということが言えるのではないかと思います。こうした時代背景の中で、客船は男女の恋愛を育む場と化したわけで、ミシェルとテリーの客船における出会いも生まれたわけです。

 エンパイア・ステート・ビルと豪華客船という2つのキーワードが非常に効果的にこの映画を演出しているように思いました。

 古き良き時代の恋愛を描いたという感じで、それなりに楽しめる映画でした。