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「あの夏、いちばん静かな海」★★★☆

あの夏、いちばん静かな海。 [DVD]

あの夏、いちばん静かな海。 [DVD]

 たまの夏休み、映画ばかり見ている日々を送るのもいいものです。

 この映画は初期の方の北野映画ですが、北野監督の持ち味、斬新さが十分に発揮されている映画です。

 聴覚障害者の茂(真木蔵人)は、清掃作業に従事しているが、ゴミ捨て場で壊れたサーフボードを拾い、それを自ら修理してサーフィンを始める。同じく聴覚障害者の貴子(大島弘子)はそんな茂に静かにぴったり寄り添っている。

 2人は周囲の世界から隔絶した孤独な世界を生きており、茂があるサーフィンの大会に出場した際、自分の名前がアナウンスされたのが聞こえず、結局出番がないまま大会が終了してしまう。

 その後、2人は徐々にサーフィン仲間とゆっくりと打ち解けていき、茂もサーフィンの大会で入賞するなど、2人を巡る環境が変化しつつあった。

 そんなある日、海に向かった茂を後から遅れて追って海に着いた貴子は、誰もいない静かな海に茂のサーフボードだけが浮かんでいる光景を目の当たりにする・・・。


 久石譲の美しい音楽をバックにとにかく淡々と静かに進行していくわけですが、この映画には“セリフ”がありません。聴覚障害者役の茂や貴子がしゃべる場面はもちろんありませんし、その他のキャストがしゃべる場面も、会話をしている“情景”を離れたところから撮ったものであって、個々のキャストが“セリフ”として主体的にしゃべっているわけではありません。

 つまり、この映画は、全体として、茂と貴子を包む日々の時間を少し離れた場所から“情景”として撮っているような構成となっており、そうした技法がこの映画をより一層静かで美しいものへと持ち上げる効果を与えています。

 やはり北野映画は、バイオレンスも決して悪くないのですが、こういう静かな美しい映画こそ本領を発揮しているような気がしました。