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映画、書評、ジャズなど

労働経済白書’07版

 今回の労働経済白書は「ワーク・ライフ・バランス」に焦点を当てたもので、成果配分に関して真っ正面から鋭い指摘がなされています。
厚生労働省:平成19年版労働経済の分析(本文版)
厚生労働省:平成19年版労働経済の分析(要約版)

 この白書では、90年代半ば以降、成果分配のメカニズムが機能しなくなっており、労働生産性の上昇にもかかわらず、それが賃金の上昇や労働時間の短縮に結びついていない点が指摘されています。

「しかし、1990年代半ば以降、正規雇用割合が大きく低下し、労働組合組織率の低下に拍車がかかり、さらに、業績成果主義型の賃金制度が導入され、労働関係の個別化が進展している。経済成長と労働生産性の上昇を労働条件の改善につなげる従来のメカニズムは十分に機能しなくなり、2000年代に入ると、労働生産性は高まったにもかかわらず、賃金は減少し、労働時間の短縮も停滞している。我が国社会の大きな変化の下で、成果配分の方式について、抜本的な見直しが避けられなくなってきている。」(平成19年版労働経済の分析<要約>)

 これは、企業にとっては耳の痛い指摘でしょう。労働者ががんばって労働生産性を向上させているのに、それが労働者に適正に還元されていないというわけです。

 こうした状況を踏まえ、

「働く人々すべてが充実した勤労者生活を営むことができるよう、仕事と生活の調和を図ることのできる雇用システムの構築を通じて、持続的な経済の成長と公正な付加価値の分配を実現していくことが大切である。」(平成19年版労働経済の分析<要約>)

と述べています。

 考えてみれば、人間社会は長い間、労働生産性を高めることによって、豊かな生活を送り、労働時間を減らして余暇を増やすという夢を追求してきたわけです。豊かな生活については、我が国ではそれなりに達成されているわけですが、他方の労働時間の削減については、ある程度実現はされているものの、まだまだ足りないというのが正直な実感ではないでしょうか。

 かつて60年代においては、フランスのフーラスティエという経済学者が「四万時間」という本を出版したことがありましたが、この「四万時間」というタイトルは、週30時間労働制の実現を前提とすれば1人の人間の全生涯における労働時間は四万時間ということになり、人生七十万時間に占める割合はほんのわずかなものとなるはずだ、という趣旨のものであり、当時、大きな反響を呼びました。

四万時間―未来の労働を予測する (1965年)

四万時間―未来の労働を予測する (1965年)

 このように、労働時間の短縮はいわば人類共通の夢のようなものであったわけですが、90年代以降、労働時間の短縮という大きな社会的課題がどうもおろそかにされてきたという感じを強く持っていました。そんな中、最近はそれが「ワーク・ライフ・バランス」という言葉によって再び大きな社会的課題として浮かび上がってきたことは、大変よいことだと思います。

 一時期の政策は、どうも労働時間の増加を導くようなものが多かった感じがします。90年代以降、企業は短期的な収益を追究するようになり、そのために非正規雇用の増加など労働者が犠牲になってきたわけです。労働規制を緩和していけば、労働時間は増加していきますし、一時期大きな問題となったホワイトカラー・エグゼンプションも、結局は労働時間の増加につながっていくことから、大きな反対に見舞われたわけです。

 そうした流れがようやく逆向きに動き出し、労働時間が削減される方向に動き出したことは、喜ばしいと思います。

 そういう意味で、今回の労働経済白書は大いに評価に値するものだと思います。